嫉妬と魔王(3)
お父さんの闇の力が消えるとヘラが砂浜に降り立つ。
すごく怒っているのが分かる。
どうして?
わたしが何かしたのかな?
あれ?
空で何かが光った?
ヘラがわたしに向かって、ゆっくり歩いて来る。
すごく綺麗だ。
銀の長い髪が風に揺れて、真っ白い翼と共に輝いている。
「赦さない……人間のくせに! 絶対に赦さない!」
明らかにわたしに怒っている?
「ヘラ、分かるか? わたしだ。ハデスだ」
ハデスがヘラに話しかける。
「赦さない! 人間の女!」
ダメだ。
全然聞こえていないみたい。
「あの……わたし……何かしたのかな?」
ヘラに話しかけてみる。
聞こえているかな?
「何かした……だぁ!?」
ヘラがにらみつけてくる。
うわぁ……
わたし……
何をしちゃったんだろう?
こんなに怒っているよ?
「ヘラ、落ち着くのだ。すぐにデメテルが来る」
ハデスが、わたしとヘラの間に立って止めようとしている。
いつの間にかお母様を呼んでくれたのかな?
そういえばさっき、光が見えたけど……
「デメテル? そうか、デメテルもこの娘を気に入らないはずだ。一緒に……」
ヘラ……?
何を言っているの?
お母様が、わたしを嫌い?
「わたしのゼウスが、この小娘の絵姿を執務室に飾って……わたしの絵姿よりも大きい物を……赦さない!」
え?
お父様の執務室の絵姿?
そういえば、お母様がそんな事を言っていたような……
「ヘラ。落ち着け。ルゥは……」
「ハデス、あなた姿が見えないと思ったらこの小娘の護衛をしていたのね? 赦せないわ。こんな島まで与えて、わたしに隠れてゼウスと愛を育んでいたなんて」
あれ?
何か勘違いをしている?
ああ、わたしがペルセポネだって知らないのか。
ハデスもわたしに気を遣って、ペルセポネの魂だっていう事を言えないんだね。
「あの……わたしは……」
「黙れ! 言い訳するな! ゼウスがお前に会う為に仕事に真面目に取り組んで、神らしく振る舞っているんだ! あり得ないだろう! あのゼウスがだぞ!?」
うわぁ……
それ、悪口じゃないかな?
「えっと……あの……」
今度こそ、わたしはゼウスの娘ですって……
「黙れ! お前の絵姿を見て、ニヤニヤ笑っているんだぞ!? わたしの絵姿ではなく、お前の絵姿を見て笑うんだ! 赦さない!」
ニヤニヤ……
お母様も言っていたな……
「だから、その……わたしは」
「黙れ! ゼウスが愛するのは、わたしだけだ!」
あ……
なるほど、嫉妬か……
でも、お母様は?
お母様も、お父様に愛されているよ?
お父様はお母様がいるのに今はヘラと結婚しているの?
そんなの酷いよ。
涙が出てくる。
ダメだ。
お母様を想うと涙が止まらない。
「お前、ルゥを泣かせたな……」
ママがヘラに攻撃しようとしている。
「何だ、魔族の鳥か……美しいな。お前もゼウスの? その子はゼウスの子か!?」
ダメだ。
ヘラは嫉妬心でおかしくなっている。
ハーピーちゃんにまで攻撃しそうな勢いだよ。
「ヘラ!? 何をしているの!?」
お母様が光の中から現れる。
「デメテル! ゼウスが女を隠していたのよ!?」
「女って……ヘラは誤解しているわ?」
お母様もわたしに気を遣って言えないんだね。
「あの……ペルセポネだよ?」
自分で言わないと。
これ以上、気を遣わせたらダメだよね?
「ペルセポネ? 何を言っている? お前は人間だろう」
ヘラ……
冷静に考えられる状況じゃないみたいだ。
困ったな。
お父様に説明してもらった方がいいかも。
「お母様? お父様は来てくれないの? 忙しいのかな?」
一応神様だし。
「ゼウスは……逃げたわ」
「え?」
逃げた?
「大丈夫よ。姉のヘスティアが連れて来てくれるから」
お姉さんが?
お父様……
怒られそうな時に逃げるのは、田中のおじいちゃんの時から変わらないね。




