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月海が寝た後で

今回は、お父さんが主役です。

 月海が寝た後、幸せの島のハデスと月海の家でお酒を呑んでいる。

 ハデスとウェアウルフと魚族長が付き合ってくれているんだけど……


「ううぅ……お母さん……まさか吉田のおじちゃんと……」


 涙が止まらない。


「魔王様……お辛いのですね。さぁ、たくさん呑んでください」


 魚族長がどんどんお酒を注いでくれる。


「呑んでも呑んでも酔えないんだ……ああ、お母さん……」


 粘土でできている身体だからかな?

 味は分かるけど、満腹にはならないし酔えもしない。


「魔王様、ヨシダのおじちゃんとはマンドラゴラの赤ちゃんですか? そんなにお嫌なのですか?」


 魚族長が心配そうに尋ねてきた。


「だって……悪い人じゃないんだよ? だけど気づくと裸踊りをしているし、田中のおじちゃんだった神様といつも変な事ばかりしていたんだ」


「裸踊り……? よく分かりませんが、お母上を取られたようで寂しいのですね」  


 魚族長が悲しそうな顔をしてくれる。


「寂しい……? うん。そうだね。ああ……ボクはダメだね。お母さんの幸せを喜べないなんて」


 そうだ。

 確か魚族長は大昔に母親と離れ離れに……

 ボクには、お母さんも月海もいるんだからこんな話をしたら嫌な思いをさせてしまうね。


「誰にでも耐えられない事はあるものです」


 魚族長は本当に優しいね。

 ……あれ?

 ウェアウルフは眠っちゃったのかな?

 まだ乾杯の一口しか呑んでいないけど。

 とりあえずソファーで寝てもらおうか。

 疲れているんだね。

 この数日はウェアウルフも色々大変だっただろうし。


「魔王様は、このまま魔王を続けるのですか?」


 ウェアウルフをソファーに寝かせると魚族長が尋ねてくる。


「そうだね。次期魔王が決まるまではね」


「そうですか。……実は最近リヴァイアサン王がヴォジャノーイ王国の領海を奪おうとしているようで……」


「その報告は受けているよ? ヴォジャノーイ王も過去に奪われた領海を取り戻そうとしているようだし。ハデスがヴォジャノーイ王国から距離を置いたのを知ったんだろうね。リヴァイアサン王はハデスを恐れていたから」


「ハデス様は黙って見ているおつもりですか?」


 魚族長がハデスに尋ねている。


「あぁ……わたしはもう天族の身体になったからな。この身体のままヴォジャノーイ王国の為に動けば、魔族はよく思わないだろう。それに、ヴォジャノーイ王には幼い頃から教育してきたからな。この程度の事なら簡単に処理できるだろう」


「幼い頃から教育……ですか?」


 魚族長の顔がひきつっている?


「あぁ。ルゥと同じ育て方をしてきた。光の力以外は全て使える。水の力以外は精霊の力を借りてだがな」


「……!」


 魚族長が絶句している。

 一体どんな教育だったんだろう?

 月海が強い理由が分かったよ。

 かなりすごい教育だったみたいだね。


「いつもわたしの後ろに隠れていたからな。力を使う事もなかったが……これからは王としてその力を存分に発揮するだろう」


 ハデスは微笑んでいるけど……

 魚族長は顔がひきつりっぱなしだ。


「ハデスは信じているんだね。ヴォジャノーイ王の事を」


 確か、ハデスがいなくても生き残れるように全てを叩き込んだって言っていたよね。


「はい。これからは王としてヴォジャノーイ王国や傘下に入る者達を守らねばなりませんが……王なら必ずやり遂げるでしょう」


 あぁ……

 ボクの悩みは何て恥ずかしいんだろう。

 魔王なんだからちゃんとしないと。


「ところで……魔王様、ずっと気になっていた事があるのですが……」


 魚族長が真剣な表情で尋ねてきたけど……


「何かな?」


「前にいた世界ではコウノトリという鳥が赤ん坊を連れて来たようですが」


「え? コウノトリ? 何の事?」


「姫様が前の世界ではそうだったと……」


「……ああ、あの……そうだね。小さい子に、赤ちゃんはどこから来たのかって尋ねられた時に伝える言葉だよ。子供の授かり方は、この世界と同じだけど?」


「そうでしたか……ハデス様はお子を望んでおられないのですか?」


 お子!?

 月海とハデスの子供!?

 孫は欲しいけど、まだ早いよ!

 あれ?

 でも、もう月海は向こうの世界と合わせれば三十歳を超えているんだよね……

 うーん。

 父親としては複雑だな。


「いや。いずれは欲しいとは思うが、今はルゥの体調が悪いからな。まだ魔素にやられた身体が元に戻らない。無理をさせたくはない……」


 ハデスは、いつも月海を大切にしてくれるね。

 本当にありがたいよ。

 それに、話を聞く限り他の天使達は浮気ばかりしているみたいだし。

 月海の相手がハデスでよかったよ。


「あの……ハデス様? 冥界に……その……ハデス様を無理矢理連れ去られるような事は……」


 魚族長は耳がいいから、家の外にいてもベリアルの話が聞こえていたんだね。


「……ベリアルから何か聞いたのか?」


「いえ……あの……その」


「……ケルベロスの事か?」


「あの……はい。姫様に危害を加えたりは……大丈夫でしょうか?」


「……そんな事はさせない。新しい冥王を決めるべきだな。もうわたしは戻らないからな」


 ハデスは、ずっと月海と一緒にいてくれるつもりなんだね。

 月海は冥界には行けないらしいし。


「ハデス、ありがとう。これからも月海をよろしくね」


「はい。魔王様」


 寂しいな……

 月海はボクの宝物だけど……

 ボクだけじゃなくて、ハデスの宝物でもあるんだ。

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