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第三地区(9)

「もう夕方か……楽しいと、あっという間に時間が経っちゃうね」


 集落の女性達にブラッシングされているお兄ちゃんに話しかけたけど……

 すごく気持ち良さそうにしているね。

 聞こえていないみたいだ……


「狼人間は綺麗な毛並みだなぁ。良い匂いだし。なかなかいい男だなぁ」


「いやぁ……ありがとうございます」


 お兄ちゃん……

 嬉しそうだね。


「あっちの魚人間は今日の夕飯の魚を捕まえてくれてるぞ? あの胸板……最高だなぁ」


 魚族長も集落の女性達に大人気だよ。

 それに比べて、お父様は……


「天ちゃん、オレもルーみてぇに目を青くしてくれ」

「高い所にあるリンゴを採って来てくれ。飛べるんだろ?」

「天ちゃんの髪は綺麗だなぁ。いい筆ができそうだ」


 一応神様なんだよね……

 いいように使われているよ。


「ダメだよぉ……髪はあげられないよぉ……デメテルちゃん、皆が意地悪するよぉ」


 泣いちゃいそうだ。

 お父様は、いつもこんな感じなのかな?


「……ゼウス。泣かないで?」


 お母様が、お父様を抱きしめた。

 あれ?

 お父様が嬉しそうにニヤニヤし始めたよ?


「デメテルちゃん良い匂いだね。大好きっ!」


「もう……ルゥが見ているでしょう? 恥ずかしいから……」


 二人は仲良しなんだね。

 見ている方が恥ずかしくなるよ。


「ハーピーちゃんのお風呂の時間もあるし、わたしとデメテルちゃんのお風呂の時間もあるからもう帰ろうか?」


 お父様が嬉しそうに話しかけてきたけど……

 お父様とお母様のお風呂の時間って言った?

 一緒に入るのかな?

 ……聞かなかった事にしよう。

 

「星治、月海、また来いなぁ」


 おばあちゃんが優しく抱きしめてくれる。


 寂しくなるけど、畑仕事があるなら仕方ないよね。

 かなり離れているけど同じ世界にいるんだから、すぐに会いに来られるよね?


「おばあちゃん、また会いに来るから元気でいてね?」


「あぁ、ベリアルの事は任せとけ」


 そうだった。

 ベリアルも第三地区に残るんだった。


「ベリアル、幸せの島もベリアルの家だからね? いつでも帰って来てね?」


「分かってるよ。ルゥもオレがいなくなっても泣くなよ?」


 かわいいヒヨコちゃんのベリアルが心配そうな顔をしている。


「うん。でもね、寂しいから三日に一回……二日に……毎日……会いに来て……」


 途中まで話して言葉に詰まる。

 

 ダメだね。

 こんな事を言ったら迷惑だよね?


「仕方ないな……じゃあ毎日会いに行ってやるよ」


「え? いいの? 嬉しいよ。ありがとう!」


 ベリアルを抱きしめると焼きまんじゅうの匂いがする。


「だから、やめろって。ハデスが怖いんだから……」


「少しだけ……少しだけ抱っこさせて? ベリアル、いつもありがとう。大好きだよ」


 温かくてフワフワのベリアルの頭を撫でる。

 かわいいなぁ……

 つぶらな瞳がわたしを見つめている。

 

「……そうか。ハデスとルゥも仲良くな?」


「うん。じゃあね、ベリアル。また明日」


「ああ。また明日な」



 こうして、幸せの島に帰って来た。


「ハデス、ウェアウルフ、魚族長……ボクね、今日は呑みたい気分なんだ。付き合って?」


 お父さん?

 元気がないみたい。

 どうしたのかな?


「はい。お母上の事が辛いのですね」


 ハデスがお父さんに話しかけたけど……

 おばあちゃんと離れて暮らすのが辛いっていう事かな?

 もう会えないと思っていたおばあちゃんに会えたのに、また離れて暮らす事になったから寂しいんだね。


「ボク……ボクは、どうしたらいいんだ……まさかお母さんが吉田のおじちゃんと……よりによって、吉田の……」


 お父さんが泣きそうになっている。

 え?

 今、なんて言った?

 まさか、おばあちゃんの恋人って……

 あの吉田のおじいちゃん!?

 それは、お父さんもショックだよね。

 


 その頃、第三地区のベリアルは___


「なぁ、どうして女も『オレ』って言うんだ? 異世界じゃ皆そうなのか? ルゥは違うけど」


「ん? 『オレ』? いつからだったかなぁ? 若い頃は『わたし』って言ってたけどなぁ。……あれは、そうだ。乙女じゃなくなった時だなぁ」


「え? それはいつだ?」


 ルゥもいつかそうなるのか?

 あれ?

 賑やかだったばあちゃん達が一瞬静まり返った?

 

「乙女だったのは、いつかって?」

「あはははは! オレ達はいつ乙女だったんだ?」

「乙女の時があったんか? あははは」

「あはは! 乙女ってなんだ?」


 すごく賑やかだな。

 ずっと笑いながら話してる。

 でも、同じ話をしてるけどそんなに面白いのか?


「そういや魔族は皆、筋肉がすごかったなぁ」

「そうだそうだ。あの筋肉はすごかったなぁ」

「あの太い腕に抱きしめられたら堪らねぇだろうなぁ」

「くうぅ! 波打ち際で走りながら『あはは! 掴まえてごらん』ってやってみてぇなぁ」


 あ、またさっきと同じ話をして笑ってる……

 波打ち際で笑って走りながら『捕まえてみろ』って魔族を挑発したいのか?

 筋肉ムキムキの魔族に追いかけられて食われたい?

 怖……

 そんな事をされたいなんて……

 さすがルゥのばあちゃん達だな。

 怖いものがないみたいだ。

 ……オレ今日からここで暮らすのか。

 不安になってきた……

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