第三地区(6)
「月海、焼きまんじゅうが焼けたぞ? 食うか?」
おばあちゃんが熱々の焼きまんじゅうを大量に持って来てくれた。
「うわあぁ! おいしそう!」
久しぶり……
串に刺さったままの焼きまんじゅうに、かじりつく。
たっぷり塗られた甘じょっぱいみそのタレが焼かれて香ばしくなっている。
おまんじゅうの部分は真っ白で、パンみたいに柔らかい。
おいしい……
たっぷりのタレで口の周りが汚れても全然気にならないくらい、夢中で食べちゃうよ。
幸せ……
あっという間に一串に四つ刺さっていた焼きまんじゅうを食べ終わる。
あぁ……
大満足だよ。
「ルゥ、口が汚れているぞ? おいしかったのだな」
ハデスがハンカチで口を拭いてくれる。
「うん! すごくおいしかった! ハデスも食べた?」
「ああ、おいしかったぞ。天族に戻ってから人間の食べ物がおいしくてな。ルゥのおばあさんの作った食べ物も最高だ」
ハデスが誰かを褒めるなんて珍しいね。
「そうだろう? 心を込めて作ったからなぁ。だからオークが作るパンも旨いんだ」
おばあちゃんの言う通りだね。
「うん。パパの焼いてくれるパンも心がこもっているからすごくおいしいんだよね。パパ、いつもありがとう」
「毎日、ルゥがおいしそうに食べてくれるからパパも嬉しいよ?」
パパが、ベリアルに焼きまんじゅうを食べさせながら微笑んでいる。
ベリアル……
お風呂に入った方がいいかも。
クチバシの周りがベトベトだ。
でも、かわいいな。
夢中で食べている。
「あははは。ヒヨコは口の周りが旨そうだなぁ。オレが風呂に入れてやろう」
ひいおばあちゃんは、すごく楽しそうだね。
赤ちゃんみたいにかわいいベリアルのお世話をできるのが嬉しいのかな?
「一人で入れるから平気だ」
ベリアル……
食べさせてもらっているのに、自分でできるって言っているよ。
かわいい……
「いいじゃねぇか。ヒヨコはかわいいからなぁ。世話がしてぇんだ」
「オレもヒヨコを風呂にいれてぇなぁ」
「オレもだ。皆で一緒にいれるか?」
ベリアルは人気者だね。
「普通の鳥は水浴びだけど、ヒヨコは天使だからお湯でいいんか?」
ひいばあちゃんの言う通りだね。
鳥は、お湯で水浴びしたらダメなんだよね。
「ちょっと熱めのお湯がいいな」
ベリアル……
かわいいヒヨコなのに熱めのお湯?
あぁ……
かわいい……
「たらいがあったろ? 魔法の石で水を出して温めるか」
ひいおばあちゃん達が魔法石を使いこなしている。
すごいな。
あっという間にベリアルのお風呂が完成しちゃった。
「どうだ。気持ちいいか? ヒヨコはかわいいなぁ」
「口の周りを洗ってやるからなぁ」
「頭に手ぬぐい乗せてもいいか?」
人だかりができている。
皆、ベリアルをかわいがってくれそうだね。
ずっと独りで闇と光の入り混じった空間に閉じ込められていたから、これからは好きな事をして幸せに暮らして欲しいよ。
「おい、見世物じゃないぞ?」
見られているのが恥ずかしくなったのかな?
ベリアルが怒っている。
「何だ? かわいいなぁ。怒ってるんか?」
「見世物じゃねぇって言ったんか? あははは」
「ヒヨコは本当にかわいいなぁ」
ベリアル……
かわいいヒヨコは怒っていてもかわいいんだよ。
「ほら、ゼウス。お口を拭いてあげるわ」
「うん! デメテルちゃんありがと」
真っ白い天使の翼が、太陽の光でキラキラ輝いている。
お父様……
口の周りが、みそのタレでベトベトだよ。
神様なんだよね?
お母様も、お父様の口を拭きながら嬉しそうにしている。
焼きまんじゅうを食べる天使……
すごい違和感だ……
二人は仲良しなんだね。
お父様は、今は違う天使と結婚しているらしいけど大丈夫なのかな?
天界は、そういうのは気にしない所なのかな?
「お月ちゃんの焼きまんじゅうは最高だよ」
お父様が嬉しそうに焼きまんじゅうを食べている。
「天ちゃんは変わらねぇなぁ。月海が小さい時にも、わざと口の周りを汚して口を拭いてもらってたなぁ」
え?
あれ、わざとだったの?
「じゃあ、今もわざと汚したの?」
お母様が呆れているね。
「うん! だってデメテルちゃんに拭いて欲しかったから」
「……もう。仕方ないんだから」
お母様は、お父様の事が大好きなんだね。
それにしても、お父様はこうやって母性本能をくすぐっているのか……
お母様は、ダメダメなお父様が好き……なのかな?




