幸せの島の物語
幸せの島での戦いの翌日___
ママと二人で、砂浜に新しくできたガゼボで涼んでいる。
昨日ウェアウルフ族が幸せの島の木を使って作ってくれた、日本の『あずまや』みたいな物はガゼボっていうらしい。
日焼け止めを塗らずに外にいたから日に焼けて赤くなった肌を見て、心配して作ってくれたんだ。
今まで外にあったテーブルと椅子をガゼボに運んでもらって、これからは外でも涼しくのんびりできる。
「おい! 鳥! お前、何でルゥと隠れて会っていたんだ? 誰にも見つからずに隠れている約束だろ?」
わたしの肩にとまっている緑色の鳥にママが怒っている。
「しかも、ピーちゃんって名前までつけてもらっているなんて!」
ママが悔しそうに怒っている?
ピーちゃんは首を傾げているね。
言葉が通じていないみたいだけど、ピーちゃんは鳥じゃなくて魔族なんだよね?
うーん?
そういう魔族もいるのかな?
「ルゥ。ジュース飲むぅ?」
パパがニコニコ笑いながらオレンジジュースを持ってきてくれた。
「うん。ありがとう。パパも一緒に座ろう?」
パパが小さくなったのはわたしの血がパパの身体に入り込んだのと、わたしが光の力を制御できなかったからだってじいじが教えてくれた。
一滴の血で島中の魔族の傷を治して、荒れた島を元通りにできるくらいだからね。
それに、死者も蘇らせたし……
魔族のパパには多量の血の力が強過ぎて、身体に異常をきたしたらしい。
それと、パパに生きていて欲しいと願うわたしの想いの強さも関係しているとか……
赤ちゃんのパパをお風呂に入れて、身体に付いたわたしの血を洗い流してしばらくするといつものパパに戻ったんだ。
良かった……
小さいパパもかわいいけど、やっぱりいつものパパが一番だね。
小さくなった時の事は覚えていないらしいけど、斬られた事は覚えていてガゼボを作っているウェアウルフ族を見て震えながら怖がっていたっけ。
ママの後ろに隠れたら怒られて泣いていたな……
「ルゥ。帰ったぞ」
じいじがヴォジャノーイ王の所から帰って来た。
これからのわたしの事を話し合ってきたみたい。
昨日の魔族以外にも、わたしを狙う魔族がいるらしいんだよね。
幸せの島にいれば、また昨日みたいな事が起こるかもしれない。
でも……
ずっと、ずっと皆と一緒に幸せの島で暮らしたい。
「これからも、ここで暮らせる事になったぞ」
わたしの髪を撫でながら、じいじが優しく微笑んでいる。
これからも今までみたいにずっと一緒にいられるの?
……嬉しい。
すごくすごく嬉しいよ。
立ち上がって、じいじに抱きつくと涙が溢れてくる。
昨日、ガゼボを作り終わって帰る前にウェアウルフ王とグリフォン王が約束してくれたんだ。
何かあったらすぐに駆けつけてくれるって。
何も無い事を願いたいけど……
今回の戦いで、全魔族の勢力図が大きく変わった。
ウェアウルフ族やグリフォン族の傘下に入っている魔族達もわたしの味方になってくれるらしい。
昨日のレモラ族もウェアウルフ族の傘下にいる種族なんだって。
元々ウェアウルフ王とグリフォン王は、お父さんが魔王だった時に反魔王勢力として共に戦った仲間らしい。
だから一緒に攻めて来たんだね。
これで離れて暮らしている、ばあばの種族を合わせれば全魔族の半分はわたしに好意的になった。
残り半分の魔族は団結していないから、わたし達が最大の勢力になるらしい。
今回みたいな事が起きないように、皆でにらみを利かせてくれるみたい。
お父さんは、この世界に来てそれほど長くは生きられなかったらしい。
わたしも……
たぶん……
ヴォジャノーイ王は、わたしに王宮で暮らして欲しいみたいだけど……
やっぱり幸せの島で家族と暮らしたいんだ。
「ルゥ。手は痛まないか?」
じいじが、昨日怪我をした手を心配してくれている。
「全然痛くないよ」
笑顔で答えてはみたけど……
魔族の怪我は治せたんだけど、なぜか自分の怪我は治せなかったんだ。
パパの傷薬のおかげですぐに治ったけどね。
昨日パパを攻撃したウェアウルフ族はウェアウルフ王だった。
他の傘下に入らずに、三つ以上の種族を従えると種族の『王』を名乗れるらしい。
ヴォジャノーイ族には魚族、ハーピー族、オーク族、他にも傘下に入る種族がいる。
だからヴォジャノーイ族長じゃなくて、ヴォジャノーイ王なんだね。
そして、全ての魔族を統べる者が『魔王』。
ウェアウルフ王は、ずっと謝っていた。
首を切り落としてくれってわたしに剣を差し出して大騒ぎになって……
昨日攻めてきた魔族達は、現れた前魔王の子が息子だと思っていたんだって。
だから襲いに来たんだけど、娘のうえに伝説の聖女だったから大慌てだった。
聖女は人間だけじゃなくて、魔族にとっても大切な存在なんだね。
じいじとママとヴォジャノーイ族のおじちゃん達が、わたしに怪我をさせたってウェアウルフ王を攻撃しようとするし。
止めるのがどれだけ大変だったか。
「ルゥ。これからは、この島に多くの魔族が出入りするだろう。いいか? 魔族達が名で呼んでくれと言っても種族名で呼ぶのだぞ? そうしないと従魔になってしまうからな。魔族の名は同族だけの秘密なのだ」
じいじが教えてくれたけど……
名前をつけちゃダメなんだね。
気をつけよう。
あれ?
でも……
「じいじ、わたしピーちゃんに名前をつけちゃったよ?」
どうしよう。
従魔って、怖い感じがする。
友達の方がいいよ。
「ん? それなら大丈夫だ」
ママは前からピーちゃんを知っているみたいだから何か分かるのかな?
「じゃあ、従魔にはならない?」
「大丈夫だ。この鳥はハーピー族長の鳥なんだ。ルゥがつけた名を受け入れていないから、従魔にはならない。勝手にルゥに会っていた事をちゃんと族長に伝えないとなぁ?」
ママがピーちゃんをにらみながら話しているね。
ピーちゃんが慌てて、いつもいる木に飛んで行った。
ママの事が怖くて逃げちゃったのかな?
また後で木の実をあげに行こう。
名前を受け入れなければ従魔にはならないんだね。
ピーちゃんが従魔にならなくて良かった。
「わたし、皆の事を名前では呼ばないよ」
だから、じいじもママもパパもお互いに種族名で呼んでいたんだね。
本当の名前は種族内だけの秘密なのか。
悪い人が主人になったら、悪い事も嫌な事も無理矢理やらされるなんて怖いな。
わたしは皆で仲良く暮らしたいよ。
いつの間にかキッチンに行っていたパパが、朝一緒に作ったプリンを持って来てくれる。
「皆でぇ、プリン食べよう?」
パパのほっぺたがピンクになっている。
嬉しいんだね。
パパの顔を見て、わたしも嬉しくなる。
真っ青な空、どこまでも広がる透き通る海、白い砂浜。
ガゼボで日陰になったテーブルを家族で囲む。
わたしは、今日も大切な家族とプリンを食べている。
これからも、ずっと、笑顔で過ごしたい。
この幸せの島で。




