第三地区(4)
「二兵衛さん!? ってあの花火師の!?」
「え? 何で知ってるんだ?」
……じゃあ、ハーピー族長とは会えなかったのかな。
族長が亡くなった時、赤い糸が見えたように思えたけど……
「……でも、確か集落の皆は空にちなんだ名前のはずだよね?」
「ん? ああ、オレの母ちゃんがな、虹兵衛って名前にしたんだけど呼ぶのが面倒だから『じ』を取って、二兵衛になったんだ」
うわぁ……
そんな理由で……
「二兵衛さん……あのね、覚えているかな? ハーピー族長の事……」
「ハーピー族長? あぁ、おあいちゃんかい? 呼んで来るかい?」
「え? 呼ぶって……?」
「外で赤ちゃんを抱っこしているぞ? 懐かしいって言ってなぁ」
「ハーピー族長がいるのおおぉ!?」
慌ててベリアルを抱っこすると、外に出る。
あれかな?
ハーピーちゃんを抱っこしている綺麗な女性……
「姫様……お久しぶりです」
やっぱり……
ハーピー族の顔立ち。
でも、人間の身体だ。
「ハーピー族長!? どうして!?」
「あの後、豊穣の女神がこの島に連れて来てくれたんです。ニヘイもいて……今は幸せに暮らしています」
「豊穣の女神? 誰?」
「デメテルの事だ」
ハデスが、お母様と歩いて来ながら教えてくれたけど……
「お母様が豊穣の神様なの?」
「そうよ? ゼウスは、この島に集落の皆さんを住まわせたけど、その後はほったらかしでね。わたしが、豊かな島にするお手伝いをしていたの」
ああ……
お母様はいつもお父様の足りないところを陰ながら助けているんだね。
でも……
大変だけど、嫌そうじゃない。
手のかかる弟っていう感じなのかな?
それともお母様がいないと、お父様はダメダメだから仕方なくそばにいるのかな?
「だが、族長が亡くなった頃は軟禁されていたのではなかったか?」
ハデス……?
お母様は軟禁されていたの?
誰に?
「軟禁といっても、閉じ込められていたわけではないの。ゼウスがわたしに何かを命令できるわけがないでしょう? どこまでも女に弱いんだから。ただ家から出ないでねって言われただけよ? もちろん何度も抜け出していたわ。ゼウスだけに任せていたら全てにおいて良くない事になるでしょう?」
うわぁ……
お父様は信用されていないんだね。
「その通りだな」
ハデスまで……
まぁ、確かにあの田中のおじいちゃんだからね。
神様の仕事は、きちんとできているのかな?
心配になってきたよ。
「お母様? お父様は神様の仕事はできているのかな?」
「え? 大丈夫よ。ミスが無いようにチェックしているから。それにね……今までは嫌々していた仕事も、ルゥに会う為にすごい速さで終わりにしているの。ウリエルも喜んでいたわ。早く帰れるってね。じっくり趣味と向き合えるとか言っていたかしら?」
お父様は、やる気がなかったのか……
お母様もウリエルも大変だったね。
「ゼウスは執務室にルゥの絵姿を描かせたのよ。いつも眺めてはニヤニヤしているわ」
ニコニコじゃなくてニヤニヤ……
「ねぇねぇ、何の話をしているの? お父様にも教えて?」
お父様……
ずっと悪口を言われていたよ……
このお父様が神様なのか。
でも、きっと神様として仕事をしている時はきちんとしている……はずだよね?




