第三地区(1)
「じゃあ、出発しようか。皆、眩しいから目を閉じて? ハーピーちゃんは目を塞いであげてね」
お父様がそう言うと皆が目を閉じる。
パパが、手でハーピーちゃんに目隠しをしているね。
「さあ、着いたよ?」
え?
着いた?
第三地区に?
五秒も経っていないよ?
ゆっくり目を開ける。
まだ少し眩しいね……
あれ?
「うわあぁ……」
すごい。
古民家みたいな建物がたくさんある。
幸せの島より、かなり大きい島だ。
畑も田んぼもある。
みかんの木?
リンゴの木もある。
「お? 帰って来たか。お月ちゃん。あれ? 魔族もいるんか?」
声のする方を見ると、すごくかっこいい日本人の男性が立っている。
……そういえば、お父様がこの世界で暮らす為の身体を創ったって言っていたね。
おばあちゃんとおじいちゃん達がマンドラゴラの頭の葉っぱを抜いて人間の姿になった。
「今帰った。月海もいるぞ」
おばあちゃんの言葉に畑仕事をしていた皆が集まって来る。
「え? ルーがいるんか? あれ? よく見たら星治じゃねーか」
「星治? ああ星治だ。元気だったか?」
「何だこのかわいいヒヨコは!?」
「綺麗な天使だなぁ。天ちゃんのいい人か?」
「赤ちゃんがいるぞ! 抱っこさせてくれ」
「何!? 赤ちゃんがいるって!?」
皆が、ハーピーちゃんを抱っこしたくて行列ができている。
すごい。
ちゃんと順番待ちができるなんて、さすが日本人だ。
「とりあえず、焼きまんじゅうでも食うか?」
おばあちゃんの家に入ると、すごく綺麗な女性が三人いる。
「あれ? もしかして星治か? オレが誰か分かるか?」
女性の一人が話し始めた。
「えっと……もしかして、おばあちゃん?」
「そうだ。久しぶりだなぁ。焼きまんじゅうでも食うか? 甘酒もあるぞ?」
「甘酒? おばあちゃんの甘酒がまた飲めるなんて……」
お父さんがすごく嬉しそうにしている。
ひいおばあちゃんか……
わたしが生まれる前に亡くなったんだよね。
「お嬢ちゃんが月海か? 星治も月海も苦労したみてぇだなぁ。これからはいつでも集落に遊びに来い。甘酒作って待ってるからなぁ」
ひいおばあちゃん……
若くて、そう呼んでいいのか分からないよ。
「あの……何て呼んだらいいのかな? ひいおばあちゃんって呼ぶには若くて綺麗だから……」
「え? 若くて綺麗? あははは」
ひいおばあちゃんも二人の女性も笑っている。
「ひいばあちゃんでいいぞ? 月海、ずっと会いたかった。ほれ、漬け物もあるぞ? いっぱい食え」
「漬け物!? 大好きだよ。ずっと食べたかったんだ!」
こたつに入りながら、おばあちゃん達の料理を食べる。
前世で集落にいた時みたいだ。
見た目は違うけど、おばあちゃんがいてお父さんもいる。
ずっと、前世で夢見ていた事が叶ったんだ。
行方不明になったお父さんに帰って来て欲しい……
一緒にご飯を食べたり、遊んで欲しい……って。
気づいていなかっただけで、マンドラゴラの姿で一緒に食事はしていたけど……
こたつに入りながら前世の料理を食べると胸が熱くなる。
「月海、旨いか? ひいばあちゃんの作ったお汁粉もあるぞ?」
「お汁粉!? うわあぁ! ごちそうだね!」
ひいおばあちゃんの作った料理は、おばあちゃんの料理と同じ味だ。
懐かしくて幸せな味。
お母さんがいてくれたら……なんて。
これ以上望んだらダメだよね。




