新しい呼び名と離れた場所にある幸せ~後編~
「ピーちゃんが陽太だって分かった時に、陽太にだけオレ達の事を話そうとしたんだ。でも……三千年も辛い思いをしてたのに、オレ達は同じ世界にいて幸せに暮らしてたなんて言えなくてなぁ……ズルズルと今になっちまった」
おばちゃんの言う通りだね。
確かに話しにくいよね。
「ピーちゃんが前の世界の集落に帰る前に教えられなかったの?」
そうすれば向こうに着いておじいちゃんが亡くなっていても、こっちで幸せに暮らしているのが分かっているから傷つかなかったはず。
「そうしたら……陽太は向こうの集落の奴に話しちまうかもしれねぇだろ? 死んだ後に違う世界で幸せに暮らしていける事が分かれば、向こうの世界で真剣に生きなくなるかもしれねぇ。それは絶対にダメだからなぁ」
そこまで考えていたんだね。
おばあちゃん達はすごいな……
「ルー、陽太はしばらくは帰って来ねぇはずだ。陽子のそばにいたいだろうからなぁ。ひとりぼっちの陽子を放っておけるはずがねぇ。だから……陽子が死んだ後に、陽太がこっちに帰って来たら謝るつもりだ。黙っていて悪かったってなぁ……」
野田のおじいちゃん……
辛いね。
集落の皆は長生きだから、ずいぶん先になるね……
「ピーちゃん……今頃どうしているかな? 泣いていないかな?」
おばちゃんと一緒にいるのかな?
それとも、どこかに隠れておばちゃんを見守っているのかな?
「陽太ならこの前、見て来たよ? 陽子ちゃんと二人で暮らしていた。もちろん、陽太だって事は秘密にしていたみたいだけど。小鳥として陽子ちゃんに可愛がられていたよ。ブラックドラゴンもドラゴンのイナンナもその姿を見て、安心して異世界の旅を楽しんでいたみたいだった」
「天ちゃん、本当か?」
神様の言葉にマンドラゴラの姿の野田のおじいちゃんが涙を流している。
ピーちゃん……
おばちゃんと一緒に暮らしていたんだね。
こっちの世界では母親に恵まれなかったけど……
やっと、幸せに暮らせるようになったんだ。
「……ルー、あの……もし嫌じゃなかったら……」
神様が何か話そうとして途中で言葉に詰まった。
何を言いたいのか、わたしには分かるよ。
だって、わたしの心にはペルセポネがいるんだから。
「お……お父様……」
今までは田中のおじいちゃんって呼んでいたから、変な感じだ。
少し恥ずかしいし……
でも、すごく心が温かい。
ペルセポネが喜んでいるのが伝わってくる。
「ルー……」
お父様が泣きながら抱きしめてくれたけど……
身体が震えている?
どうしてこんなに震えているの?
どこか具合が悪いんじゃ……
「ごめん……ごめん……お父様は愚かだったよ……ごめん」
……?
どうして謝るの?
「お父様?」
「ルー、お父様はね……愚かだけど……何度でも同じ事をするよ? ルーの為だったらお父様は何だってできるんだ。どんなに悪い事だって……」
「お父様……?」
悪い事?
何だろう?
スイカ泥棒かな?
花泥棒?
……田中のおじいちゃんがする悪い事には全部理由があるんだ。
近くで見てきたから分かるんだよ。
悲しんでいる皆に笑って欲しくてやっていたんだよね。
「お父様……わたしね、お父様がすごく優しいって知っているよ? 全部理由があるんだよね。だから、もう泣かないで。これからはお父様って呼んでいいのかな……?」
ペルセポネの記憶は戻らないけど、そう呼びたい……
「ルー、うん。うん……ずっとそう呼んで欲しかったんだ」
温かいな……
温かくて優しい。
抱きしめてくれるお父様はずっと泣いていた。
わたしもペルセポネの心の喜びが伝わって、涙が止まらなかった。
ピーちゃんも幸せに暮らしているみたいだし、おじいちゃんとばあばも新婚旅行を楽しんでいるみたいだし。
そういえば、イフリート王国とウェアウルフ王国、人間のおばあ様の国とドワーフのおじいちゃんの温泉に遊びに行く事になっていたんだ。
早く元気になって、わたしも旅行を楽しみたいな……




