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新しい呼び名と離れた場所にある幸せ~前編~

「え? どういう事ですか? マンドラゴラがおばあ様とは……?」


 皆でプリンを食べているとウェアウルフ王が驚きながら尋ねてきた。

 

「わたしも昨日知ったんだよ? 神様が、集落の皆の魂が暮らす島を創ってくれたんだって」


「……魚族長も陸に上がっているし、前ヴォジャノーイ王は天族で冥王。聖女様は神の子……少し留守にしただけでこんなに変わっているとは。さすが幸せの島ですね……」


 ウェアウルフ王が、色々あり過ぎて考え込んでいる。


「ウェアウルフ王……大丈夫?」


 久しぶりにウェアウルフ王の頭を撫でるとフワフワで気持ちいい。

 それにすごくいい匂いだ。


「聖女様、わたしはもう王ではありません。……あの……もし、お嫌でなければ……お……お兄ちゃんと……」


 ウェアウルフ王が恥ずかしそうに話して黙った?


 え?  

 お兄ちゃん?

 ……どちらかというと弟みたいにかわいいんだけど。

 でも、さすがに弟じゃ失礼かな?


「うん。分かった。今日からウェアウルフ王は、わたしのお兄ちゃんだね」


 ニコニコのわたしの顔を見て、お兄ちゃんも笑っている。


「ありがとうございます。聖女様」


「あ……お兄ちゃん?」


 まだ呼び慣れないな。


「はいっ! 何でしょう?」


 お兄ちゃん……

 すごくいい返事だね。

 やっぱり弟みたいにかわいいな。

 しっぽがすごく揺れている。

 あれ?

 マンドラゴラの姿の吉田のおじいちゃんがしっぽにじゃれている。

 ……おじいちゃん、この世界を満喫しているんだね。

 いや、前世でもかなり自由に暮らしていたかも……


「お兄ちゃんには、ルゥって呼んで欲しいな。魚族長にもそうして欲しいの。ダメかな?」


「え? 聖女様を呼び捨てになどできません」

「そうです。姫様は姫様です」


 うーん……

 いきなり変えるのは難しいかな?


「じゃあ……いつかそう遠くない未来に呼んでもらうね? それならいいかな?」


 どうかな?

 嫌かな?


 お兄ちゃんと魚族長が顔を見合わせている。


「はい。今ではない、いつかに必ず」


 魚族長が優しく微笑んでいる。

 

 今ではない、いつか?

 しばらく先になりそうだね。


「聖女様……わたしには無理かもしれません。いつか自然にそう呼べる日が来たらその時に……」


 敬語もやめて欲しいって言おうとしたけど無理そうだね。

 

「これからはずっとお兄ちゃんと一緒にいられるんだね。毎日楽しくなりそうだよ」


「はい。聖女様の為に物作りをしながらのんびり暮らしていきたいです」


 そうだね。

 今までは王として大変だったから、のんびり穏やかに暮らして欲しいな。


「今から神様が創ってくれた第三地区に行くんだけど、お兄ちゃんと魚族長も一緒に行けないかな?」


 皆で一緒に行けたら楽しそうだよ。


「そうだなぁ。ウェアウルフの兄ちゃんには世話になったからなぁ」


 おばあちゃんの言う通りだ。

 マンドラゴラ語の通訳をしてもらっていたからね。

 おもちゃもたくさん作ってもらったし。

 でも、おばあちゃん達……

 本当は普通に話せたんだね。

 

「ウェアウルフの兄ちゃんの作るおもちゃは、昔遊んだ物に似てて懐かしかったなぁ。つい童心に戻っちまった」


 確かにそうだね。

 ゼンマイで動くおもちゃとか、ツミキとか懐かしいよね。

 

「おばあちゃん達はキュイキュイしか話せなかったわけじゃないんでしょ?」


 不思議だったんだよね。

 お父さんみたいに人間の言葉を話してもよかったんじゃないかな?


「人間の言葉だと声でばれるかと思ってなぁ。ウェアウルフの兄ちゃんが、マンドラゴラ語が分かったから助かった。天ちゃんに言われてたんだ。マンドラゴラ語以外を話す時は人間の声のままだから気をつけるようにってなぁ」


 そうだったんだね。

 ピーちゃんの事もあったし、おばあちゃんやおじいちゃんだっていう事は内緒にしたかったのかな?

 でも、島に来た時からピーちゃんが陽太お兄ちゃんだって分かっていたのかな?


「天ちゃんがなぁ……これから月海と星治が大変な事に巻き込まれそうだから、近くで支えになって欲しいって言ってなぁ。内緒にしてたのは……言いにくかったからだ。集落に生まれた奴は皆、この世界で幸せに暮らしてたのに星治と月海は苦労してたみてぇだからなぁ。それに星治は自分をマンドラゴラだって偽りてぇようだったし。同じマンドラゴラの姿のオレ達が集落から来たって言えば、星治の事もばれるかと思って黙ってる事にしたんだ。まさか、陽太までこの世界に来てたなんて……知った時は驚いたなぁ」


 ずっと、近くで見守ってくれていたんだね。

 名乗りたいのを我慢していたんだ。

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