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異世界で家族と食べるプリンは最高です~後編~

「ハデスを冥王に復帰させようという意見も出てね。でも、そうなればルゥは人間の身体だから……ハデス、あなたはルゥが冥界のザクロを食べれば冥界にいられると思っているかもしれないけれど……それは違うわ。いくら聖女でも冥界には入れない。人間のルゥがずっと冥界にいる事は、身体への負担が大きいの。冥界は天族の死後の世界だから……」


 お母様の声が震えている。

 冥界のザクロ……?

 よく分からない。

 でも、ハデスが辛そうな顔をしている?

 

 お母様がゆっくりと話を続ける。


「ルゥ……大天使のほとんどが、ハデスを冥界に戻そうと言ったの。でも、ウリエルがね……ハデスとルゥを引き離してはいけないと言ってくれたの」


 ウリエルが……?

 

「ルゥとハデスは惹かれ合っているから引き離してはいけないし、決して引き離せないだろうとも言っていたわ」


 わたしはウリエルに酷い事を言っちゃったのに、庇ってくれるなんて……


「でも大天使達はハデスに戻って欲しくてね。それで賭けをしたの」


 賭け?

 何の?


「ルゥに、ほんの少しだけハデスを疑う心を植え付けて簡単に二人が傷つけ合うようならハデスを冥界に連れ戻そうと……」


 ハデスを疑う心?

 それで、あんなに心が苦しかったんだ。


「天界から大天使達と見ていたの。気が気じゃなかったわ。ルゥが苦しんでいる姿なんて、とても耐えられない……でも、大天使達を納得させる為にはそうするしかなかったの」


 ずっと見ていたの?

『どうしてそんな事をしたんだ』って責められないくらい辛そうな顔をしている。

 見ていたお母様も辛かったんだろうね……


「ルゥとハデスが今までの事を乗り越えて幸せそうに笑っている姿に大天使達も納得して、時を戻した事を罪には問われなくなったの。もちろん、ハデスもこのままルゥとずっと一緒にいられる事になったわ」


 そうだったんだね。

 わたしが自殺していたなんて……

 ハデスは、わたしが知ったら傷つくと思って黙っていたんだね。


「……ごめんなさい。わたしが自殺したから皆に迷惑をかけちゃった……」


 泣いているわたしをママが優しく抱きしめてくれる。


「ルゥ……わたしのルゥ……辛かったな。もう大丈夫だぞ。ルゥは独りじゃないからな。ここにいる皆がルゥの家族だぞ? ルゥがいなくなったら……わたしは生きてはいけない。分かるか? 皆がルゥを愛してるんだ」


 泣いているママの、真剣で悲しそうな姿に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「うん……わたしは……わたしには家族がいっぱいいるんだね……」


 もう二度と自分を傷つけるような事はしないよ。


「聖女様……わたしも今日から家族です」


 ウェアウルフ王がリビングの扉の前に立っている。


「わたしも姫様の家族にしてください」


 魚族長も来てくれたんだね。

 

「うん……うん。ごめん……ごめんね。もう絶対に皆を悲しませる事はしないよ……」


「それでいいんだ。まったく……ルゥは手がかかるな」


 ベリアル……

 泣いているの?

 

「ルゥ? ベリアルがね、ルゥとハデスを引き離さないようにウリエルに頼みに行っていたの。いがみ合っていた仲なのに、必死にお願いされたってウリエルが話してくれたわ」


 お母様が嬉しそうに微笑みながら教えてくれたけど……


「な……言うなよ。恥ずかしいだろ? ウリエルめ……口が軽いんだな」


 恥ずかしそうなヒヨコちゃんの姿のベリアルもかわいいね。


「ベリアル、ありがとう。嬉しいよ」


 テーブルにいるベリアルを抱きしめる。

 うわぁ……

 柔らかい。

 メープルシロップみたいな匂い。

 つぶらな瞳がかわいい……


「ベリアル……ちょっと吸わせて……」


 ちょっとでいいから、吸って撫でてそれから……


「おい! やめろ。そんな事をしたら……!」


 ベリアルが慌て始めた。

 慌てる姿もかわいいよ。

 

「ベリアルは眠くなったようだ……永遠にな」


 ハデスがベリアルを取り上げた?


 あぁ……

 わたしのモフモフが……

 ん?

 永遠にって言った?


「だから嫌なんだよ。ハデスは怖いんだって何度も言ってるだろ?」


 ベリアルがパパの方に飛んで逃げちゃった。

 もっと吸ったり撫でたりしたかったのに……


「あれ? プリンだ……」


 食卓に、たくさんのプリンとパンが並んでいる。

 いつもプリンは、わたしが作っているけど。

 パパが作ってくれたのかな?


「さぁ、皆でご飯にしよう?」


 パパの優しい声……

 心が落ち着く。


「うん。お腹空いたぁ」


 皆で食卓を囲む。

 ニコニコのわたし。

 ニコニコの家族。


 皆で食べるプリンは最高においしい。


 おばあちゃん達とは離れて暮らすようになっちゃうけど……

 離れていても家族だから。

 会いたくなったら毎日だって会いに行けるよね。

 わたし達は、この異世界で長い時を生きていくんだから……

 もう、あの時みたいな悲しいお別れは絶対にしないよ。

 前世のわたしとは違うんだ。

 あの時欲しかった、おばあちゃんを持ち上げられる力も治癒の力もあるんだから。

 無力な自分に泣く事はない。

 何かあったらすぐに助けに行くからね。


 この世界に来てから色々あった……

 辛い事もあったけど、今となっては全部幸せになる為の試練だったんだと思う。

 たくさんの試練に打ち勝ったんだから、もう怖い事なんてないよ。

 明日も明後日もそれから先もずっとずっと笑顔で暮らしていけるよね。

 

 たくさんの家族がいる、この幸せの島で。

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