ハデスとヴォジャノーイ王国~後編~
「伯父上と母上が仲睦まじい兄妹だった事はヴォジャノーイ族なら皆知っています……」
ヴォジャノーイ王が泣き出しそうな表情でハデスに話しかけている。
「嬉しかった……お前が産まれた時、また家族が増えたのだと……お前の父親は、お前が産まれる前に死んでいたからな。わたしが父親代わりになり、できる事は何でもしようと思った」
「伯父上……」
「だが……わたしはいつか冥界に帰らなければいけなくなるかもしれない……そう思いながら生きてきた。だから、お前が一人残されても生きていけるように厳しく育てた。甘やかすのは簡単だ。だがそうしてしまえばお前はここまで生きられなかっただろう。お前にもしもの事があれば、わたしは尋常ではいられない」
「伯父上……ううぅ……」
王様……
よかったね。
やっぱりハデスは心から王様を大切に想っていたんだ。
「これからも、伯父上と……その……呼び……たい……」
断られそうで話せないのかな?
「……お前がそう呼びたいのならば、そうすればいい。わたしのお前に対する気持ちは何も変わらない。だが……これからは王の役割の手助けはしない。分かるな? 天族が魔族の手助けをすれば、他の王から攻め込まれる口実を作る事になる」
「全てわたしの為なのですね……伯父上、わたしは立派な王になります。必ずなってみせます」
「そうか……お前ならなれる。支えてくれる者も大勢いるからな。わたしも離れてはいるが、その中の一人だ」
「はい……伯父上」
よかった。
騙していたって言われなくて……
それに、今回の事で絆が深まったみたいだ。
「伯母上も天族だったと伺いました。だから伯母上はお美しいのですね」
え?
わたしが美しい?
「……お前、今何と言った?」
ハデス……
顔が怖いよ?
「お……伯父上……いや……あのっ」
いつも通りの王様だ。
安心したよ。
「伯母上は成長して更にお美しくなられたと……思って……」
ハデスの顔色を窺っている……
二人の関係は変わらないんだね。
それだけ絆が深いっていう事かな?
ずっと二人で支え合って生きてきたんだもんね。
「ですが……心配です。これほどお美しいと、言い寄る愚か者が現れそうです」
「……確かにそうだな」
いや、大丈夫だと思うけど……
「それに少し露出が多いのではないかと……」
……?
露出が多い?
わたしが?
「……その通りだな。この服はダメだ……成長したルゥの姿は目の毒だ」
え?
ハデスが持って来た服なのに?
アラビアンパンツとチューブトップじゃダメなの?
動きやすくていいんだけどな。
……幸せの島は常夏だから当たり前だけど、島の外だとそう見えるのかな?
「服職人を呼べ。今すぐだ」
ハデス……
もう深夜だから迷惑になっちゃうよ。
「ハデス……今じゃなくても」
「ダメだ。他の奴には見せたくないのだ」
……?
何を?
「さぁ、伯母上。城の中にどうぞ。お菓子もたくさんありますよ?」
「お菓子!? うん。お腹空いた!」
ニコニコのわたしを見て、ハデスも王様も笑っている。
さっきまで、あんなに心が疲れていたのが嘘みたいだ。
おばあちゃんにも会えたし、これからは楽しい事がたくさん起きそうな予感がする。
ハデス……
わたし、心から幸せだよ……
もうハデスを苦しめるような事は言わないから。
これからも一緒に楽しく暮らしていこうね。




