ルゥとハデスとペルセポネ(3)
「……だか……」
何だろう?
わたしの声?
ペルセポネが話しているの?
「ペルセポネ……すまない。わたしは、ルゥを愛してしまった。ペルセポネを裏切ってしまったのだ」
ハデス?
「分かっているわ。ルゥに伝えて欲しいの。わたしの魂はもうルゥの魂に溶け込んでいる。というよりは……わたしはもうルゥなの。お母様に話したのはわたしの心でありルゥの心。だから、わたしがルゥの身体を奪ったりする事はない……」
溶け込んでいる?
ひとつになっているっていう事?
「ペルセポネ……すまない。自害させてしまったとは……」
「ハデスは謝ってばかりね。昔からあなたは不器用で、真っ直ぐで……他の天族と違って、とても誠実だったわ」
「謝る事しかできない。何度謝っても赦される事ではないが……」
「じゃあ……わたしじゃなくてルゥに謝らないとね? わたしはある意味自ら望んで自害した……でもルゥは違うでしょう? わたしに身体を与える為に消えようとしたの。ハデス……あなたは不器用過ぎるわ。ただ抱きしめて愛を伝えるだけでいいのに。共に死のうなんて……信じてもらえるまで何度でも話して? ぶつかり合ったとしても、分かってもらえるまで何度でも話せばいいの。ハデスは今、生きているんだから。もう、あの時とは違うのよ?」
「ペルセポネ……わたしは……」
「もう……しっかりして。ルゥを愛しているんでしょう? 他の誰にも取られたくないんでしょう? ルゥだって同じよ。わたしにハデスを取られたくないの。でも、心を壊してまでわたしに身体を譲ろうとしたのよ。どれだけ辛かったか……」
ペルセポネ……
わたしの心配をしてくれるの?
「お父様に魂を入れられた後、わたしは月海として月海の身体と共に成長したの。もちろんペルセポネであるわたしには天族の時の記憶もあるわ。でも、今は月海やルゥとしての感情の方が強いの。不思議ね。ひとつの身体に心が複数存在するなんて……ペルセポネの記憶は月海の身体に入ってから、だんだん薄れていっているわ。完全に忘れる事はないでしょうけど……ハデスもそうでしょう? 古い記憶は新しい記憶に上書きされていくものよ」
「あぁ……そうだな」
「わたしを忘れてルゥを愛した事を恨んではいないわ……だから、わたしに気兼ねして言いたい事を我慢しないで? わたしに悪いと思って言えないんでしょう? ハデスが何を言いたいのかを、わたしの口から言わせないで。分かった? じゃあね……ルゥを守れるのはあなただけよ……」
「ペルセポネ……」
「……あぁ、それから……気をつけてあげて? 優しい笑顔をして近づいてくる……恐ろしい……」
ペルセポネ……?
何の話をしているの?
……あれ?
身体の感覚がある?
背中にひんやりする砂の感覚。
砂浜に横たわっている……?
誰かにほっぺたを触られている。
温かくて大きい手。
あぁ……
間違えるはずがない。
この優しくて、甘い匂い。
「……ハデス」
目が開けられない。
開けたら涙がこぼれてしまうから。
「ルゥ……すまない。すまなかった……」
ハデス……
泣いているの?
「伝えたい事がある……聞いてくれるか?」
伝えたい事?
何?
怖いよ。
わたしをいらないって言うの?
聞きたくない……
「……ルゥ、愛しているよ。この広い……広過ぎる世界に……ルゥが姿を隠したとしても、わたしは必ずルゥを見つけだす。永遠に……ルゥだけを愛していく。ルゥはわたしの……唯一の愛しい女性だ」
……!
ハデス……
さっきペルセポネと話していた事はこれなの?
目を開けると涙がこぼれ落ちる。
ハデスの顔が涙で歪んで見える。
「ルゥ……愛しているよ。もうわたしのそばからいなくならないでくれ。いや……もう二度と離さない」
ハデスの唇が、優しくわたしの唇に触れる。
ごめんね……
ハデス……
もう二度と消えたいなんて思わないよ。
ごめんね。
たくさん傷つけてごめんね。
わたしもハデスを愛しているよ。
これからもハデスだけを愛していくよ……




