ルゥとハデスとペルセポネ(2)
「ハデス……わたしを消して? ペルセポネに身体を返して……」
これでいいんだ。
……もう疲れたよ。
ハデスが、わたしの中にペルセポネを見ている事に耐えられない。
ハデスを信じられないわたし自身にもうんざりだ。
「ルゥ……また追い詰めてしまったのか」
……また?
「ルゥ……わたしは不器用だ。だから上手く話せない。だが、これだけは分かって欲しい。ルゥ……信じてくれなんて言えない。わたしは酷い奴だ。……生きているのが辛いか?」
わたしを消してくれるの?
「……共に死のう」
え?
共に……?
「これから先、何度もこうなるだろう。その度にルゥは傷つく事になる。わたしは卑怯だ。ルゥもペルセポネも……大切なのだ。すまない」
あぁ……
今までの幸せの全てが……
ハデスとの時間の全てが否定されたみたいに思えてくる。
わたしさえ消えればいいんだ。
そうすれば、ペルセポネがこの身体を使うんだから。
ハデスは生きてペルセポネと幸せになればいい。
……もう生きていたくない。
「ハデス……ハデスは生きて? ペルセポネと幸せに暮らして欲しいよ。すぐにわたしの事なんて忘れるから。ハデスはペルセポネを裏切ったんじゃない。わたしの中にペルセポネを見ていたんだから」
そう。
すぐにわたしの事なんて忘れちゃうんだ。
わたしが今までいた場所にはペルセポネがいて、誰もわたしの事なんて思い出しもしない。
……わたしなんて存在しなければいいんだ。
そうすれば皆、幸せになれるんだ。
ペルセポネもハデスも……
数千年もペルセポネを待っていた神様もお母様も……
……やっぱりわたしなんていない方がいいんだ。
「ハデス……ハデスならできるでしょ? わたしの魂を消して、ペルセポネにこの身体を使わせる事が……」
ハデスの顔を見る事ができない。
ずっと下を向いている。
信じたいのに……
もうわたしの心は耐えられないみたい。
これ以上ハデスの口からペルセポネの名前を聞いたら完全に壊れちゃう……
「……全てわたしのせいだ。わたしが消えよう」
……?
ハデス?
何を言っているの?
「わたしがいなければ、ルゥは幸せに暮らしていける」
「違うよ! わたしがいなければ皆が幸せに……」
わたしがいなければハデスとペルセポネは幸せになれるんだよ。
「皆……? ハーピーか? オーク? 魔王様? 本当にそう思うのか?」
「……ママ、パパ……お父さん?」
「そうだ。皆ルゥの幸せを願っている」
「だって……わたしは、お父さんの本当の子供じゃない……わたしはずっと偽者なんだよ」
そうだよ。
わたしはどこにいても偽者なんだ。
「ルゥは……わたしの知るルゥは……ルゥだけだ。悪いのは卑怯なわたしだ」
これ以上ハデスを傷つけたくない。
もう終わりにしよう……
「何度話しても答えは決まっているんだよ……わたし……もう疲れちゃったよ……ペルセポネの身体を傷つけたくないの。わたしの心を消して? そうすればハデスは幸せになれるんだから」
これでいい。
ペルセポネ……
これでいいんだよね?
これからは毎日、ハデスと一緒にいられるよ?
すごく幸せに暮らせるよ?
だって、ハデスは優しくて温かくていつもわたしを想ってくれて……
あぁ……
違うね。
ペルセポネだけを想ってくれるよ……
もう
何も考えたくない
何も見たくない
何も聞きたくない
砂浜に仰向けに倒れ込む。
星が綺麗だ。
キラキラ輝いている。
ゆっくり目を閉じる。
このまま永遠に眠ろう。
もう、誰にもわたしの名前を呼ばれない所に行くんだ。
わたしに与えられてきた名前は全て偽物だったから……
(本当にそうなの?)
え?
……誰?
心の中で誰かが話しかけてきた?
ペルセポネなの?
……違う。
ペルセポネじゃない。
あなたは……
誰?
「……ルゥ? ルゥ!? ……ペルセポネ」
ハデスが呼んでいる。
わたしじゃなくて、ペルセポネを……
ここは……?
真っ暗だ。
前も後ろも分からない。
地面もないの?
不思議な所だ。
何の音もしない。
なんて落ち着くんだろう。
ひとりぼっちだけど寂しくない。
懐かしい感じがする……?
あれ?
わたし……身体がない?
あぁ、そうか。
ペルセポネがわたしの身体を使っているんだね。
これでいいんだ。
ペルセポネは帰るべき場所に帰れたんだ。




