ルゥとハデスとペルセポネ(1)
「そろそろ出発するか」
ハデスとヴォジャノーイ王国に行く事になったんだけど……
もうヴォジャノーイ族の身体じゃないから、海の中は進めないのかな?
「どうやって行くんだ? いつもみたいに海の中を行くのか?」
ママも同じ事を考えたんだね。
抱っこされているハーピーちゃんがニコニコ笑っている。
ご機嫌でかわいいな。
「水の精霊のネーレウスに頼んでもいいが、ルゥ一人なら空から行けばいい」
……?
空から?
ハデスが、しまっていた翼を出した。
どうなっているんだろう?
不思議だな。
さっきまで背中に翼はなかったのに。
痛くないのかな?
翼を出すから変わった形の服を着ていたんだね。
「行くぞ」
ハデスに抱き上げられる。
うわあぁ……
お姫様抱っこだ。
ハデスが翼を広げると、ゆっくり空に浮かび始める。
すごい!
小さい頃はママにやってもらったけど、最近は落としたら危ないからってじいじだったハデスにとめられていたんだよね。
ハデスはわたしを抱っこして飛べるんだ。
でも、重くて疲れないかな?
「ハデス……重くない? ヴォジャノーイ王国まで疲れない?」
抱き上げてはみたけど、やっぱり重くて無理とか思われたら……
「ルゥは、小さくてかわいいから大丈夫だ」
小さくてかわいい!?
かわ……
かわいい……?
ドキドキする。
ハデスが、かわいいって言ってくれたよ。
あぁ……
わたしは、ハデスが好きなんだ。
大好きなんだ。
どうしてわたしへのハデスの気持ちを疑ったりしたんだろう。
ペルセポネ……
あなたがハデスを好きになった気持ちが、わたしにはよく分かる。
わたしは……
ずっとこの身体にいられるのかな?
ペルセポネの記憶が蘇ったら……
わたしは消えちゃうのかな?
そうしたら……
ハデスは喜んでペルセポネを受け入れるのかな?
……ダメだ。
こんな事を考えちゃダメ。
おばあちゃんだって言っていたよ?
イナンナは身体を奪おうとはしなかったって……
ペルセポネだってきっと……
「ルゥ? 疲れたか? 少し休むか?」
ハデス……
ダメだよ。
今、優しくされたら……
泣いちゃうよ。
「……ルゥ」
ハデスが近くの島に降ろしてくれる。
「辛いか? どこか痛むか……?」
言えない……
言えるはずないよ。
ペルセポネの方が好き?
わたしなんていらない?
そんな事、絶対に訊けない。
もしペルセポネの方が好きって言われたら?
違う……
ハデスは絶対にそんな事は言わない。
優しいから、そう思っていても口には出さない。
心ではわたしをいらないって思っている?
いつか記憶が戻ったペルセポネが使う身体だから大切にしているの?
落ち着いて……
落ち着くんだ。
……ハデスを信じるって決めたばかりだよ?
どうしたの?
しっかりして!
わたしはこんな子じゃなかったよ!
「ルゥ?」
ハデスが心配そうに覗き込んでくる。
「……大丈夫だよ。寝ていないからかな?」
本当の気持ちなんて言えないよ。
「……ルゥ。話して欲しい。溜め込まないで欲しい。……いなくならないでくれ。ルゥ……」
ハデスが声を絞り出すように話している……?
ハデスも辛いの?
「話したら……嫌いにならない? わたしをいらないって言わない?」
涙が止まらない。
もし、いらないって言われたら……?
「わたしは……卑怯だ。ペルセポネを自害に追い込んだ事も知らずに……ルゥを愛してしまった。ルゥは、わたしを恨んでいないのか?」
「どうして……? 恨むはずがないよ。むしろ、わたしが……邪魔して……ハデスは……わたしが消えてペルセポネになった方が……嬉しい?」
もう、引き返せない。
嫌われたかな……
「……そんな風に思っていたのか。ルゥ、違うのだ。わたしは……すまない」
すまない……?
やっぱり、わたしに消えて欲しいんだ……
立っていられずに座り込んでしまう。
ダメだ。
身体に力が入らない。
ハデスはペルセポネを愛しているんだ。
わたしは……
消えた方がいいんだ。
本当はハデスはわたしの事なんて好きじゃなかったんだ……




