マンドラゴラの秘密(4)
「おばあちゃん達はずっとマンドラゴラの姿で過ごすの?」
「いや、頭の葉っぱを外すと……」
マンドラゴラの姿のおばあちゃんが頭の葉っぱを抜いた?
あ……
抜けるんだ。
つるんとしてかわいいかも。
あれ?
おばあちゃんが倒れちゃった!?
「おばあちゃん!? 大丈夫?」
慌てて抱き上げたけど……
動かない……
まさか……
「月海、オレはこっちだ」
おばあちゃんの声?
……?
誰?
すごく綺麗な女性……?
「まさか……昭和の大スターの!? え?」
お父さんが慌てている?
昭和の大スター?
誰?
え?
まさか……
「おばあちゃん……なの?」
おばあちゃんは若い頃テレビに出ていたの?
パンチパーマの姿しか知らなかったよ?
「天ちゃんが身体を創ってくれるって言うから……せっかくなら綺麗な方がいいだろ?」
おばあちゃんが嬉しそうに話しているけど……
マンドラゴラの頭の葉っぱを抜くと人間の身体になるっていう事?
でも、マンドラゴラの身体はわたしが抱っこしているよね?
魂がマンドラゴラと創られた身体を移動しているとしたら……
創られた身体は今までどこにあったの?
一瞬で人間の姿になっていたよね?
まさか……
頭の葉っぱが生えていた穴から身体が出てきたんじゃ……
穴の中はどうなっているの?
うーん……
見た感じ普通の穴だよ?
「ぷはっ!」
ん?
マンドラゴラの赤ちゃんの姿の吉田のおじいちゃんが笑った?
何か面白い事でもあったのかな?
「じゃあ……集落の皆も……?」
お父さんが顔をひきつらせて尋ねている。
「ああ。皆、好きな俳優とか歌手の身体を創ってもらったんだ」
「……皆、楽しんで暮らしているんだね」
お父さん……
転移してからずっと大変だったからね。
「皆、集落から出た事がねぇ奴ばかりだろ? だから海に囲まれた島で楽しく暮らしてるんだ」
「群馬には海がないからね……」
お父さん……
顔がひきつりっぱなしだ。
でもよかった。
魔素に苦しんでいなくて本当によかった……
……あれ?
まただ。
「吉田のおじいちゃん……? 野田のおじいちゃんも、どうして魚族長に水をかけているの?」
マンドラゴラの姿のおじいちゃん達が温泉用の桶で水をかけている。
「ルー、これは海水だ。身体が乾燥してきてるから濡らしてるんだ」
身体が乾燥!?
「うわあぁ! 魚族長! 大変だよ! 一回海水に入って!」
「え? これは……乾燥してカサカサだ!」
魚族長が慌てて海に潜る。
魚人族じゃないから乾燥しちゃうのかな?
でも他の魚族は魚っぽい感じだけど、魚族長は足もあるし魚人族っぽく見えるんだよね。
「魚族長大丈夫? 光の力で治そうね……」
波打ち際で治癒の力を使う。
「まさか……こんな事になるなんて。姫様、助かりました」
「時々、海に入った方がよさそうだね」
「はい。陸に上がれた事が嬉しくて全く気づきませんでした。次からは気をつけます」
「魚族長、そろそろ時間です」
あれ?
魚族が迎えに来たのかな?
「もうそんな時間か……姫様、今日は楽しかったです。今宵はお出かけでしたね。お気をつけて」
「うん。魚族長、ありがとう。また明日ね」
「はい。また明日」
魚族長の姿が海に消えていく。
魚族長の嬉しそうな顔……
思い出しただけで、わたしまで嬉しくなっちゃう。
「月海は、いい仲間に巡り会えたんだなぁ」
おばあちゃんが優しく抱きしめてくれる。
お互い群馬にいた頃とは違う身体だけど……
あの頃に戻ったみたいに心が温かい。
「うん……皆、大切な家族なんだよ?」
「そうか、そうか。ばあちゃんは安心して第三地区に帰れるなぁ」
「え? 帰るって……そんな。ずっと一緒にいたいよ」
「月海……これからはいつでも会える。それに、そろそろ田植えの季節だからなぁ」
「田植え?」
「あぁ……集落の時と同じだ。皆で助け合って暮らしてるんだ。そうだ。大昔、神様に木を植えてもらった娘もいるぞ?」
「え? そうなの!?」
集落の少女が!?
まさか会える日が来るなんて……
「会ったら驚くぞ?」
「驚く? すごく綺麗だから?」
あれ?
でも、今は見た目が変わったのかな?
皆創られた身体なんだよね?
「会えば分かるさ。……月海。心の奥にいるイナンナはオレの身体を奪おうとはしなかった。オレはオレで、イナンナはイナンナだからなぁ。月海とペルセポネもそうだ。……だから月海らしく生きろ。な?」
おばあちゃん……
ありがとう。
わたしらしく……か。
そうだね。
わたしらしく……だね。
おばあちゃんの心の奥にいるイナンナ……か。
わたしの魂はペルセポネだった。
その魂がわたしになったんだ。
でも……
なんだろう?
違和感しかないんだ。
イナンナの魂が受け継がれるってどういう事なんだろう?
お父さんの中にもイナンナの魂がいるの?
うーん?
魂は分けられるのかな?




