マンドラゴラの秘密(3)
「よく分からねぇんだけど……天ちゃんが言うには第三地区で産まれた奴は、天使に近いから死後に魂だけこの世界に来るらしいんだ」
マンドラゴラの姿の野田のおじいちゃんが教えてくれたけど……
天使に近い?
どういう事?
そういえば冥界は亡くなった天使が行く所だったよね。
そんな感じなのかな?
『天ちゃん』か……
田中のおじいちゃんは天ちゃんって呼ばれていたんだ。
神様だから天ちゃん?
田中のおじいちゃんらしいね。
「今は、他の皆はどこにいるの? 皆一緒にいるの?」
安全に暮らしているのかな?
魂だから魔素には、やられないのかな?
「オレが来た時には、この世界に第三地区があったんだ」
おばあちゃん……?
『第三地区』って……
前世の集落と同じ呼び方?
「向こうの集落で生まれ育った奴は、死ぬと皆そこに来るみてぇだなぁ」
どういう事?
繋がっているの?
「月海、醤油を作る国があるのを覚えてるか? あれはこの世界の第三地区で作った物なんだ」
……そんな。
これってどういう事なの?
神様に会ったら訊かないと。
あれ?
でも、魂だけがこっちに来たんだよね?
じゃあイナンナの魂はどうなったの?
イナンナは集落で産まれたわけじゃない。
まさか……消え……
そんな……
「おばあちゃん……」
ダメだ。
訊くのが怖い……
もしイナンナの魂がこの世界に来ていなかったら……
消えたっていう事になるの?
わたしには魂の事は分からないけど、イナンナの魂がずっと子孫に受け継がれるなんてできるの?
どうやって?
群馬でおばあちゃんがお父さんを産んだ時、おばあちゃんの中にいるイナンナの魂がお父さんの中にもいた?
それとも、産まれてきたお父さんにイナンナの魂が移動した?
でも、おばあちゃんは出産後も生きていたわけだし……
魂は分けられるっていう事?
「月海……イナンナは今も……いや。月海……月海はなぁ、オレの孫だ。オレの世界一かわいい孫だ」
「おばあちゃん……わたし……」
わたしの魂はおばあちゃんの孫じゃないのに……
涙が止まらない。
こんなわたしをまだ孫だって言ってくれるなんて。
ありがとう。
おばあちゃん……
ありがとう。
「星治……オレら家族は、イナンナの魂を代々受け継いでいるらしいけどなぁ。オレの母ちゃんもばあちゃんもこの世界に来てるぞ?」
「おばあちゃんとひいおばあちゃんが……? じゃあ、皆に会えるの?」
お父さんが嬉しそうにしているけど……
イナンナの魂を代々受け継いでいるはずなのに、この世界に来ている?
それってどういう事?
イナンナの魂は何個にも分かれている……とか?
でもそんな事ができるの?
ハデスとお母様の話から考えると身体に魂が入らないと死産に……
あれ?
……頭がボーっとする。
……?
わたし……
今、何か大切な事を考えていたような……
うーん……?
頭にモヤがかかったみたいになっている。
「ああ……天ちゃんに『マンドラゴラにしてやるから月海と陽太のそばに行くか』って言われてなぁ。それでオレらが来たんだ。また月海に会えるなんてなぁ」
え……
あの時イフリート王子に焼かれたマンドラゴラ達って……
まさか……
「おばあちゃん……あの時、焼かれたマンドラゴラって……」
集落の皆じゃないよね?
「あれは普通のマンドラゴラだ。星治以外のマンドラゴラは皆焼かれてなぁ。その後、オレら三人が天ちゃんの力で幸せの島に来たんだ」
そうだったの?
集落の皆が焼かれたわけじゃないんだね。
焼かれたマンドラゴラ達は熱くなかったかな?
クローンで増やしたってお父さんは言っていたけど……
どうやって動いていたんだろう?
皆、意思を持っているように見えたよ。
クローンなんてわたしには難しくてよく分からない……
でも……
「吉田のおじいちゃん、野田のおじいちゃん……おばあちゃん。また会えて嬉しいよ」
「ルー……ごめんな。ずっと黙ってて……ごめんな」
野田のおじいちゃん……
ピーちゃんの事で辛かったのに謝る事なんてないよ。
「ルー、よく頑張ったなぁ。これからは、じいちゃん達が守ってやるからなぁ」
吉田のおじいちゃん。
前世の時と変わらない。
いつも笑顔が素敵だったよね。
「うう……おばあちゃん! おじいちゃん……」
皆で抱きしめ合うとマンドラゴラの身体が小さくて……
もう人間の姿じゃない事に胸が痛む。
でも、また会えて嬉しい。
あぁ……
涙が止まらないよ……
この世界は不思議な事ばかりだ。
それだけじゃなくて、苦しくて辛くて……
でも幸せな事もあって……
この世界に来て……
ずっと謝りたかったおばあちゃんにも、赤ちゃんの時に離れ離れになったお父さんにも会えた。
お母さん……
お母さんもいてくれたら……
そこまで望んだらダメかな?
「いつか月海と星治が第三地区に来るのを皆、楽しみにしてたんだ。生クリームもあるぞ?」
マンドラゴラの姿なのにおばあちゃんの声で話しているなんて……
やっぱり見慣れないね。
「生クリーム!? あるのか!?」
ベリアルのつぶらな瞳がキラキラ輝いている。
そんなに生クリームが食べたかったんだね。
「ルゥ、明日行ってみるか? 明日はウェアウルフが来る日だからな。一緒に連れて行きたいだろう?」
ハデス、嬉しいよ。
明日か……
集落のおじいちゃんとおばあちゃん達にまた会えるんだ。
「うん! 久しぶりに皆に会えるんだね。すごく嬉しいよ!」
「月海、醤油だけじゃねーぞ? 焼きまんじゅうも、こんにゃくも、うどんもあるぞ?」
「ええ!? 焼きまんじゅう……こんにゃく……うどん……!?」
全部、大好物だよ。
嬉しい!
明日は皆にも会えるし、おいしい物もたくさん食べられそうだ。




