マンドラゴラの秘密(2)
「……声低っ!」
って、今はそこじゃない。
マンドラゴラの赤ちゃんって話せたの?
しかも、おじいさんみたいな声……
全然赤ちゃんじゃないよ?
……今まで、このおじいさんマンドラゴラは赤ちゃんの振りをしてキュイキュイ言っていたのか。
あれ?
そういえば一緒にお風呂に入っていたような……
「おめぇ、話したらダメだろ……」
え?
何?
今しゃべったのはマンドラゴラのお姉ちゃん?
おばあさんみたいな声……
あれ?
嘘……
どうして……?
今の声は……
涙が溢れてくる。
聞き間違えるはずがない。
だって……
「姫様? 何か悲しいのですか? どこか痛いですか? 泣かないでください。わたしはどうしたら?」
魚族長が心配してオロオロしている。
「ルゥ? どうした? 誰かにいじめられたのか? ママがやっつけてやる」
ママ……
そうじゃない。
そうじゃないの。
「ルゥ! どうした!? どこか痛むのか?」
ハデス……?
魔王城にいたはずなのに。
どうして?
「うう……ハデス……」
ダメだ。
涙が止まらない。
「ヴォジャノーイの戦士が月海が泣いているのが聞こえるって教えてくれたんだよ? どこか痛いの?」
お父さんも来てくれたの?
よかった。
呼びに行こうと思っていたんだ……
……でもどうして皆、どこか痛いのかって訊くのかな?
「お……お父さん。マンドラゴラのお姉ちゃんが……」
ダメだ。
泣き過ぎて上手く話せない。
「何だ? マンドラゴラがいじめたのか?」
「ママ……違うの」
「……月海、オレが誰だか分かるんか?」
マンドラゴラのお姉ちゃんが人間の言葉を話し始めた。
やっぱり……
この声を忘れるはずがないよ。
「え? そんな……」
お父さんが言葉に詰まっている。
お父さんにも分かったんだね……
「うう……おばあちゃん」
マンドラゴラのお姉ちゃんを抱きしめる。
ずっと近くにいてくれたのに気づかなかったなんて……
「え? 姫様?」
魚族長が首を傾げている。
「おばあちゃん……ごめんね。助けられなくてごめんね」
あの日、わたしがもっとちゃんとしていれば……
おばあちゃんは生きていられたはずだよ。
「月海……月海のせいじゃねぇんだ。もう泣くな」
おばあちゃん……
赦してくれるの?
「そうだ。ルーは、なんにも悪くねぇ」
……?
赤ちゃん……?
わたしの事を知っているの?
「……誰?」
「オレだ。オレ。吉田のじいちゃんだ」
「……えええ!?」
嘘でしょ!?
吉田のおじいちゃん!?
……今まで、おじいちゃんがキュイキュイ言っていたの?
「えっと……じゃあマンドラゴラのお兄ちゃんは誰なの?」
そういえば最近、お兄ちゃんは元気がなかったけど……
「オレだ……ルー。分かるか?」
誰かな?
おじいさんの声だけど……
「ごめんね……分からないよ」
「オレは……野田のじいちゃんだ」
「え? ……そんな……野田の……」
ピーちゃんは、おじいちゃんに会う為に集落に行ったのにもう亡くなっていたなんて……
じゃあ……
ピーちゃんが辛かった時、おじいちゃんはずっとそばにいたんだね。
「どうして名乗らなかったの? ……辛かったね。おじいちゃん。本当は『おじいちゃんだ』って言いたかったよね」
わたしも、野田のおじいちゃんも涙が止まらない。
「言えなかった……オレが死んだと分かったら陽太が悲しむと思って……」
「おじいちゃん……どうして皆、マンドラゴラになっているの?」
「よく分かんねぇんだ。でも集落で産まれて、死んだ奴らは皆いるぞ?」
「え? どういう事?」
「月海……オレが話そう。この中じゃ、一番早くこの世界に来たからなぁ」
おばあちゃん……?
「お母さん……何がどうなっているの?」
お父さんも混乱しているみたいだ。
「あの日、オレは誰かに温泉に呼ばれたんだ。その後の事はぼんやりとしか覚えてねぇんだ」
大天使に操られていたんだよね。
「まさか大天使にいいようにされていたなんてなぁ……気がつくと、この世界に来てたんだ」
おばあちゃんが辛そうに話している……
「わたしみたいに転移して来たっていう事?」
わたしと同じだ。
マンドラゴラに憑依したのかな?
「魂だけな……」
「魂だけ? でも、マンドラゴラになっているよ?」
「ああ、これは神様がやったんだ。まさか天ちゃんが神様だったなんてなぁ」
「神様が? 何があったの?」
集落で産まれた人間だけ?
じゃあ……
お母さんは来られなかったんだ。




