ヴォジャノーイ王とハデス
「前王妃様、とてもおいしいプリンでした」
ヴォジャノーイ族のおじちゃんが、わたしに肩叩きをされながら気持ち良さそうにしている。
「いつもたくさんお世話になっているから。毎日すごく感謝しているの。本当にありがとう」
「前王妃様……オレは、今日のこの日を絶対に忘れません!」
「うん。わたしも忘れないよ」
おじちゃん達はいつも優しい。
本当にありがたいよ。
でも、これからどうなるのかな?
ハデスはヴォジャノーイ族じゃなくなったし。
もう会えなくなるなんて事はないよね?
「前王妃様? 疲れましたか? 元気がないようですが……」
おじちゃんに心配させちゃった……
「いや……もう島に遊びに来てくれないのかなって……考えたら寂しくて……」
ハデスもヴォジャノーイ王の仕事の手伝いを辞めるって言っていたし。
そうなれば、もうおじちゃん達が島に来る必要はないんだよね。
「そんな事はありません。必ず毎日会いに来ます。前王妃様と過ごす時間は最高に幸せなのですから。それに、魔王様のお手伝いもしていますから」
そうか。
これからも毎日会えるんだ。
「嬉しい。すごく嬉しいよ。これからもよろしくね。おじちゃん大好きだよ……」
「前王妃様! オレも大好きです」
「何言ってるんだ? 今のはわたしに言ったんだ」
「え? わたしに言ったんだぞ?」
また始まった。
……でも嬉しいな。
いつも通りのこの時間が、すごく心地いい……
「前王妃様……前王様は、もう聴力は人間並みになられたのでしょうか?」
「うん。そうみたいだよ?」
「……今は、魔王城に行っていますね。今から話す事も聞かれないでしょう」
「え? 聞かれたら困る話なの?」
聞こえないから悪口を言うとか……?
それはないか。
「前王様が王様の仕事を手助けしておられたのにはわけがあるのです」
「……? どんな?」
「王様のお母上様との約束です」
確か『ヴォジャノーイ族の身体』の妹さん……だったかな?
どんな約束なんだろう?
「ヴォジャノーイ族の国は、前王様が族長になられるまでは王国ではありませんでした」
確かハデスが族長になってから、いくつかの種族を傘下に入れて王国になったんだよね。
「前王様には跡継ぎがおられず、甥である現王様が王位を継ぎました」
魔王だったお父さんが亡くなって、いつか現れるわたしの為に王位を譲ったって聞いたけど……
「王様は、残忍と言われるヴォジャノーイ族の王になるには優し過ぎたのです。王位を奪おうとする者達まで現れまして……」
「命を狙われたの? 大丈夫だったの?」
「はい。前王様が邪魔者を全員始末しましたので……約束通り守り抜かれたのです」
ハデスが始末した……?
やっぱり、ハデスは王様をかわいがっていたんだね。
妹さんとの約束は王様を守るっていうものだったのかな。
「前王様は、ご自身が王位を退いた後……唯一の家族である現王様の身を案じておられました。命を狙われるのは分かりきっていましたので。……王になるしか生き残れる道はなかったのです」
そうだったんだ。
それで、あんなに優しい王様がヴォジャノーイ族の王になったんだね。
ヴォジャノーイ族は魔族の中でも恐れられているくらいだから……
優しい王様が王座を守るのは大変だろうね。
「現王様も政務に励んでおられますし、前王様も安心して前王妃様と幸せな時を……ううっ……幸せを……願……」
おじちゃん……
泣いちゃった。
「ありがとう。泣かないで……」
おじちゃんの髪の生えていない頭を撫でる。
少しひんやりしているね。
モフモフしていないけど、かわいいよ。
ハデスは皆からただ恐れられているのかと思っていたけど、少し違うのかもしれない。
怖いけど、優しい……頼りになる感じ?
わたしに、ハデスの事をもっと知って欲しくて教えてくれたのかな?
わたしの知らないハデスの姿か……
過去にあった事が積み重なって今のハデスになったんだ。
わたしは過去にあった事を知らない。
でも、今のハデスの事は誰よりも知っている。
優しくて強くて、いつもわたしを支えてくれる。
そんなハデスを……
ハデスの心を信じるよ。
これからも、ずっと大好き……
この気持ちは絶対に変わらない。




