突然の奇襲~ママが主役の物語、後編~
『突然の奇襲』を、ママの目線で書いたものです。
ヴォジャノーイ族の戦士が何人か陸に上がった。
ドオン!
ドオン!
すごい音だな?
ん?
人間の船?
どうして人間の船が死の島を攻撃しているんだ?
「何だ? あれは!」
大声で叫ぶ声が聞こえてくる。
誰が騒いでいるんだ?
陸にいる全員が家を見ている。
家から、白い光がキラキラと空に伸びている。
……?
あの光は?
空にいるハーピー族とグリフォン族も光に気づいて、くぎづけになっている。
「この光は! 大昔に見た事がある! 人間の聖女だ!」
ウェアウルフ族が叫んだけど……
聖女?
あいつ何を言っているんだ?
大昔、大きい戦があった時に傷ついた魔族を聖女の光が癒したんだよな?
あの光が聖女の光って事は、まさかルゥが聖女?
確か大昔に伝説の聖女が死んだ後、聖女は一人も現れていないんだよな?
もしルゥが聖女だったら、人間も魔族もルゥの取り合いになるぞ。
でもそうなれば、魔王の娘だからって命を狙われる事はなくなるのか?
「魔王の息子を殺して、家の中にいる聖女を連れて帰るぞ!」
さっき、聖女だと騒いでいたウェアウルフ族が叫んでいる。
声をきっかけに、また戦いが始まったが……
何を言っているんだ?
魔王に息子がいたのか?
ルゥを男だって勘違いしているのか?
前魔王の子がいずれ現れる事は人間には、ほぼ知られていない。
でも魔族は皆、知っている事だ。
前魔王に助けられた種族はルゥを守ろうとしているが……
他の魔族は自分達の王を魔王にしたいから男なら殺し、女ならパートナーにしようと考えているようだ。
……ルゥをパートナーにする?
そんな奴は絶対に許さん!
ドオン!
ドオン!
人間の船がまた死の島に大砲を撃った?
人間は何をやっているんだ?
全然、島に当たっていないし。
バカなのか?
「もうやめて!」
ルゥの叫び声?
空から家を見るとルゥが血まみれで立っている。
まさか、家に敵が入った?
防御膜の中に入ったのか?
あのヴォジャノーイが張った防御膜に?
ルゥは強い。
返り血かもしれない。
でも、もしルゥに怪我をさせたのなら絶対に赦さない!
あれ?
死の島にいる魔族の動きが止まっている?
ルゥの魅了の力か。
今ならルゥの近くに行ける。
慌ててルゥの所に飛んで行く。
ヴォジャノーイも駆け寄って来た。
「「ルゥ!」」
ヴォジャノーイとわたしの声が重なる。
ルゥの血まみれの身体が震えている?
返り血じゃないのか?
「怪我したのか?」
ルゥに顔を近づけて確認する。
「ママ、うぅっ」
ルゥがわたしを呼びながら涙を流す。
ヴォジャノーイが震えるルゥを抱きしめると話し始める。
「怪我をしたのか? じいじに見せてごらん?」
ヴォジャノーイが心配そうにルゥを見つめている。
「じいじ。パパが、パパが……」
ルゥが泣きながら話して、言葉を詰まらせた?
オーク?
オークに何かあったのか?
まさか、死んだのか?
オーク……
胸が痛む。
……?
どうしてこんなに胸が苦しいんだ?
……?
ん?
ルゥが抱いている、小さい緑色の物が動いている?
「は? これ、オークか?」
「うえぇーん!」
わたしが覗き込むと、驚いた小さいオークが泣き出した!?
は?
どうして泣くんだよ?
見ただけだぞ?
でも……生きていてくれて良かった。
……小さいオーク、かわいいな。
「じいじ、どうすればいい? わたしにできる事はある?」
ルゥが真剣な顔をして尋ねている。
ついに前魔王の娘だと話す時が来たのか。
ヴォジャノーイと目が合う。
ついに……
話すのか?
ルゥは人間だ。
前魔王の娘だと知ったら傷つくかもしれない。
「うえぇーん!」
まだオークは泣いているのか。
オークを抱いているルゥの手から砂浜に血が流れ落ちた。
やっぱり、怪我をしているんだ!
早く、オークが作った傷薬を塗らないと!
……?
砂浜が変だ。
どうしたんだ?
ルゥの血が落ちた所が白く光っている?
光が広がって、死の島を包み込んでいく。
身体が温かい。
ルゥを抱きしめている時みたいに気持ちいい。
「傷が治っているぞ? ハーピーはどうだ?」
ヴォジャノーイが不思議そうに尋ねてくる。
何を言っているんだ?
そんなはず……
え……?
脇腹の傷が治った?
かなり深い傷だったのに。
どうなっているんだ?
ルゥは本当に聖女なのか?
砂浜に倒れていた魔族達が立ち上がって、ルゥを見ている。
嘘だろ?
死んだ奴が生き返った?
こんな事……
あり得ないだろ?
ヴォジャノーイに炎で焼かれて炭みたいになってた奴まで元通りになっている……
……ルゥは聖女だ!
わたしを含めた、この場にいる全員が思っているようだ。
「じいじ、ママ。わたし、分かっちゃった!」
オークを見ながら何かを考えていたルゥが大声を出した。
自分が聖女だと分かったのか……?
「あのね、あのね。パパ、聖女かもしれないよ?」
……?
え?
何?
死の島にいる魔族達が首を傾げた。




