プリンの宴と魚族長
「本当に前王様なのですか? 天族だったとは……」
ヴォジャノーイ族のおじちゃん達がハデスを、じいじだって分かってくれたみたい。
「今宵全てを話そう。今はプリンの宴をするのだろう?」
ハデスは冷静だ。
でも、ヴォジャノーイ王は甥なんだよね。
騙していたって思われたら……
心配だよ。
「キュキュイ?」
マンドラゴラの赤ちゃんがプリンを食べたそうにスプーンを持って、わたしのアラビアンパンツを引っ張った?
「プリンを食べたいのかな? もう冷えた頃だね。宴を始めようか……」
こうして、ヴォジャノーイ族のおじちゃん達の『いつもありがとうの宴』と、魚族長の『陸に上がれてよかったねの宴』が始まった。
「なるほど、前王様は天族に無実の罪で追放されていたのですか。そして、神力で魚族長を陸に上がれるようにした……と」
おじちゃん達は、ずっとヴォジャノーイ族の王だと思っていたんだ。
なかなか信じられないよね。
「うん。そうなんだ。それとね……わたしの魂も天使だったの」
ちゃんと話しておこう。
隠し事はしたくないから。
「え? 前王妃様も……? それは……? 異世界の少女の魂ではなかったのですか?」
「……うん。わたしも、さっき聞いたばかりなの。神様の娘さんが亡くなって、その魂がわたしなんだって」
「ええっ!? 神の子!? 神のぉお!?」
おじちゃん……
興奮しているね。
「前王妃様……それは……いえ……あの……え?」
混乱するよね。
わたしだってまだ混乱しているし。
でも……
「あのね……何となくだけど集落にいた時から、わたしの中に違う誰かがいるっていうか……そんな感覚があったんだ。わたしね……皆を騙していたから、すごく申し訳なくて……でも、こんなわたしでも受け入れてもらえて嬉しかったんだ」
本当にありがたいよ。
月海でもルゥでもなかったのに……
わたしは結局、誰なんだろう。
ペルセポネにもなりきれていないし。
「姫様……我々は姫様の前世とやらを知りません。ですが、赤ん坊の頃からずっと一緒にいます。姫様自身が姫様なのです」
魚族長?
わたし自身が……わたし?
「上手く言えませんが……姫様は甘えん坊で、食べる事が好きで、モフモフしたものが好きで、波打ち際で眠るのが好きで……それが姫様なのです。わたしの中の姫様はそうなのです。だから傷つかないでください。姫様には、いつでも笑っていて欲しいのです」
魚族長……
ありがとう。
嬉しいよ。
「わたしが……波打ち際で寝ていたのはね……わたしが赤ちゃんの時に魚族長が話していた事を覚えていたからなんだよ?」
もう覚えていないかな?
十年以上前の話だから。
「わたしの話……ですか? それは……?」
やっぱり覚えていないか……
「魚族長がね……わたしが家の中で毎日眠るから寝顔が見られないって言っていたの。その顔が寂しそうで……だから、自分で歩けるようになってから時々波打ち際で眠っていたんだよ?」
「……姫様。そうだったのですか」
「眠っているわたしの髪を撫でたり、海水がかからないようにしてくれていたよね……迷惑だったかな?」
「迷惑だなんて! わたしは、姫様の成長を間近で見られて本当に幸せでした。姫様はいつもそうです。誰かの幸せの為に動かれて……だから周りにいる者達も姫様の幸せを考えるのです」
「魚族長……」
「これからは、いつでも陸に上がれます。今度は、わたしが姫様に会いに行く番です」
陸に上がれなくて、お父さんの最期に立ち会えなくて……
わたしの危機の時も見ている事しかできなかったって泣いていたけど……
すごく素敵な笑顔だ。
大好きな魚族長が笑っているとわたしまで嬉しくなっちゃう。
……?
さっきからマンドラゴラのお兄ちゃんが桶の水を魚族長にかけている?
どうしたのかな?




