知らされた真実(3)
「うん……ありがとう。そうだね。あはははっ……うぅ……」
ダメだ。
やっぱり涙が止まらない。
「ルゥは泣いたり笑ったり忙しいな……赤ん坊の頃から変わらない……」
ママも泣いている……
でも、わたしを泣き止まそうとしてくれているのが伝わってくる。
「ありがとう。ママ……大好きだよ」
「ああ……わたしもルゥが大好きだ」
ママが、ハデスに抱きしめられているわたしのほっぺたを優しく撫でてくれる。
「ううぅ……」
ママに抱っこされているハーピーちゃんが泣き出しそう。
お腹が空いたかな?
「さあ、皆でご飯にしようね」
パパが優しく髪を撫でてくれる。
大きくて温かい手だ。
「月海……お父さんは……月海が月海だから大切なんだよ?」
お父さん……
ごめんなさい。
わたしの為に……
わたしを娘だと思って、この世界で頑張っていたのに……
騙されたって思わないのかな?
わたしを嫌いにならないの?
「お父さんは……わたしに騙されたって……思……」
ダメだ。
言葉が出てこない。
「思うはずない……そんな事……ハーピーが言っていた通りだよ? お父さんだけが月海のお父さんだから。これから先、記憶が蘇って混乱する事もあるはずだよ? でも、お父さんはずっと月海のそばにいるからね」
お父さん……
「デメテル……月海ときちんと話して欲しいんだ。ハデス、二人だけで話してもらおう。寝室を借りてもいいかな?」
こうして……
寝室でデメテルと話をする事になった。
ソファーに並んで座っているけど……
気まずい……
記憶は戻っていないけど……
何となく覚えている。
デメテルはペルセポネのお母さんなんだね。
「ルゥ……辛い思いをさせてごめんなさい」
……デメテル。
ずっと守ってくれていたんだよね。
神様も、田中のおじいちゃんとして助けてくれていた……
あ……
じゃあ、田中のおじいちゃんが魂のお父さん……?
「わたし……どうしたらいいか分からないの」
皆を騙していたんだ……
申し訳なくて心が痛い……
「いつも通り……ではダメ?」
いつも通り?
今まで通りっていう事?
「ゆっくり家族になりましょう? 今から始めたいの」
デメテルが、わたしのほっぺたを優しく撫でてくれる。
温かい手だ……
ゆっくり家族になる……?
それに……
「今から始めるって……?」
家族を始めるの?
「ペルセポネの記憶が戻ったとしても、心はルゥのままのはず。だから、ルゥが消えてなくなるわけではないわ。安心して?」
わたしは消えないの?
ずっと怖かった。
身体からも、集落からも追い出されそうで……
今だって、このルゥの身体から出て行けって言われそうで……
責められそうで怖いのに……
「それでもいいの? 娘さんに戻って来て欲しかったんでしょう?」
だから、何千年も頑張ってきたはずだよ?
「……それは、少し違うわね。わたしはね……娘を不幸にしてしまったの。だから、今度は……今度こそは幸せに笑って欲しかったの。もう幸せの邪魔はしない。絶対に」
デメテル……?
「何があったの? 不幸って?」
「……惹かれ合っていた娘とハデスを引き離してしまったの。そのせいで……ペルセポネ……」
「……泣かないで。お母様。あの時の約束を守ってくれてありがとう」
わたしの口から勝手に言葉が出てくる。
少し怖いけど……
ペルセポネの温かい気持ちが伝わってくる。
でも、約束って何だろう?
「ペルセポネなの……? あぁ……お母様を赦してくれるの?」
「お母様……生きていてくれてありがとう」
……?
あれ?
涙が溢れてくる。
ペルセポネの心が泣いているの?
目の前に砂嵐みたいな映像が見える。
あの時と同じ……?
違う。
今度は声が聞こえてくる。
「お……母様……ごめん……お母様は……生きて……」
「ペルセポネ……ペル……」
これは、ペルセポネの記憶?
デメテルが泣きながらペルセポネを呼んでいる?
……?
何があったの?
でも……
デメテルに訊いたらダメだ。
きっとすごく辛いはずだから。
いつか、わたしの記憶が戻るその時まで待った方がいいんだよね?
この記憶の事は誰にも訊かない……
訊いたらダメなんだ。
「デメテル……わたし……デメテルの事をお母様って呼んでも……いいの?」
わたしの心が、そう呼びたいと言っている気がする。
「ルゥ……そう呼んで……くれるの?」
デメテルがわたしを抱きしめる。
甘い匂い。
どこか懐かしい。
わたしは本当にペルセポネだったんだね……
「お母様……大好き……」
あぁ……
ペルセポネの感情が伝わってくる。
温かくて穏やかな気持ち。
ペルセポネ……
安心したんだね。
お母様の温もりに、疲れきった心が温められていくのを感じる。




