母としてのデメテル(3)
今回は、ハデスが主役です。
満足そうに笑うハーピーに心が落ち着く。
ハーピーは嘘をつけないからな。
純粋で心が温かい……
少し、ずれているところもあるが……
ハーピーがルゥのそばにいてくれてよかった。
今は亡き、前ハーピー族長がハーピーを島に来させた理由がよく分かる。
子が授からないと傷ついていたハーピーに、赤ん坊を与えてあげたいと言っていたが……
それだけではない。
ハーピーは他人の心に寄り添う事ができる。
それを知ったうえでハーピーを島に寄越したのだな。
「ルゥは幸せですね……本当に……ごめんなさい」
デメテル……
わたしがペルセポネとの事を分かってもらえるまで何度でも話していれば、こんな事にはならなかったはずだ。
そうすれば、今でもペルセポネとデメテルは仲の良い親子として過ごせていた……
「……デメテル、こういう時は『ありがとう』って言うんだぞ?」
ハーピー……?
ありがとう……か。
「……はい。ありがとう……ハーピー」
デメテルの笑う顔を久々に見たな。
最後に笑った顔を見たのは、いつだったか……
飲み込まれていた父親の腹から出た時か?
違うな……
あれは、ペルセポネ誕生の宴の時か……
冥王になってから天界にはほぼ行かなかったからな。
天界で最後に見たデメテルは、ペルセポネの事で怒り狂っていた……
そしてわたしの魂を抜いた……
「ところで、デメテルはどうして今までルゥに会いに来なかったんだ? 会いたくて堪らなかっただろ?」
ハーピーは、デメテルが軟禁されていた事を知らなかったな……
「あぁ……それは……聖女の身体は海に落ちて一度息が止まっていたから心配で、島に様子を見に来たのです。それを拐いに来たとゼウスに勘違いされ……軟禁されていました」
そうだったのか……
弟よ……
どこまで愚かなのだ。
「軟禁? 今はもう大丈夫なのか?」
「はい。軟禁といっても……ゼウスは、わたしに甘いので簡単に抜け出せました。というよりは……女という存在に弱い? というか……」
遥か昔もそうだったが……
今もそうなのか……
愚かだな。
救いようがない。
「デメテルは苦労しているんだね……よかったら月海と島で暮らさない? 月海もきっと喜ぶよ?」
魔王様……
よかった。
穏やかな表情だ……
「ありがとうございます。ですが……ゼウスは、わたしがそばにいないと仕事をしないのです。時々遊びに来てもよろしいですか? ルゥがわたしを受け入れてくれたら……ですが」
「もちろん。デメテル……月海を生かしてくれてありがとう……」
魔王様……
いつもの優しい笑顔だ。
「セージ……赦してくれて……ありがとう」
「ルゥに話しに行くんだろ? わたしも一緒に行きたいぞ?」
そうだな……
ハーピーがいれば心強い。
ルゥ……
今度は……
今度こそ……
皆で幸せになる方法を見つけよう。
もう自害はさせない。
絶対に……




