母としてのデメテル(2)
今回は、ハデスが主役です。
「セージ……イナンナは……そうですね。ルーの身体はイナンナの子孫です」
魔王様の結婚相手が、魂の抜かれたイナンナだったとは言えるはずがない。
普通の人間に見えるように細工して操っていたようだ。
弟は本当に愚かだ。
魔王様……
前の世界のルゥはイナンナの娘なのです。
イナンナと先代の神との間にできた子が集落に産まれ……
その子孫が魔王様でした。
魔王様と天族のイナンナの身体に授かったのがルゥ……
かなり強い神力を持つ身体だったせいで、本来入るはずだった魂が耐えられなかった。
だから前世のルゥの身体には魂がなかったのだ。
弟の罪は許されるものではない。
「……そしてウリエルが、集落で溺死したルーの魂を『人間と魔族の世界』の聖女に憑依させたのです。聖女にも魂は存在していませんでした。聖女の母親の身体は出産に耐えられそうになく、わたしは母体に神力を注ぎ続けていました。そして、この世界にルゥが産まれてきました」
「月海……月海が……ボクの子じゃない……? 違う、身体は月海だった? でも……でも……」
魔王様……
受け入れがたい話だ。
混乱するのも当然だ。
「……デメテルだったな。お前、ルゥの事が大切か? 愛しているか?」
ハーピー?
ずっと黙っていたが……
突然どうしたのだ?
「はい。何よりも愛しています。ペルセポネの事ももちろん愛しています……ですが、ルゥとペルセポネは別の人格です。ルゥをルゥとして愛しています」
「わたしには難しい事は分からない。でも……要するに、死んだ子を失いたくなくて生きられる方法を見つけたんだろ? それでルゥが産まれてきた。違うか?」
「……その通りです」
「じゃあ、わたしに言える事はひとつだな。デメテル、ありがとな」
ハーピー……?
「ありがとう……? それは、どういう……?」
「だって、今のルゥがいるのは、デメテルが頑張ったからだろ? わたしだってルゥを失いそうになったら、何とか生きられる方法を探すはずだ。魔王だってそうだろ? ルゥを守りたいから、マンドラゴラになってルゥに会いに来たんだろ?」
……ハーピー。
お前は本当に……
真っ直ぐで、常に前を向いているのだな。
わたしはルゥの後を追い、自害する事しかできなかったというのに。
「……ボクは、集落で月海と暮らしたのは一年だけで……父親らしい事なんて何もしていなくて。だから……でも……月海は……」
魔王様の辛い気持ちが伝わってくる……
「魔王、じゃあもうルゥに『お父さん』って呼ばれなくてもいいのか? わたしは、ずっと『ママ』って呼ばれたいぞ? だってルゥのママはわたしだけだからな。デメテルはママじゃなくてお母さんとか……お母様……? にしてくれよ?」
「ハーピー……ボクは……ボクだってそうだよ。お父さんはボクだけだから……集落で苦労してきた月海をたくさん甘やかすって決めたんだ。ボクがしっかりしないといけないのに……ボクは……これからも月海に『お父さん』って呼んで欲しい……ハーピーに言われるまで気づかないなんて……ありがとう。ハーピー」
「ん? 何だ? ルゥを甘やかすのか? わたしもルゥを甘やかしたいぞ。じゃあ、皆で温泉に行くか。ルゥが行きたがっていたからな」
「そうだね……温泉か。いいね。ハーピーが月海のママで心強いよ」
「わたしが強い? 当然だ! わたしはハーピー最高の戦士だからな」
少しずれているところもあるが……
ハーピーらしい真っ直ぐな考えだな……




