突然の奇襲~ママが主役の物語、前編~
『突然の奇襲』を、ママの目線で書いたものです。
ベットでスヤスヤと気持ち良さそうに眠るルゥを抱きしめながら、腕の羽毛で温める。
最近は毎晩一緒に寝ている。
オークには『ハーピーばっかりずるいよぉ』とか言われるが、オークは身体が大きいから寝ながらルゥを潰したら危ないからな。
それにオークの奴、時々ルゥを見てヨダレを垂らしているんだよな……
あいつ本当は肉食なんじゃないか?
それにしても、さっきから妙な気配がする。
『奴ら』か?
眠っているルゥを起こさないようにベットから出る。
家から出るとヴォジャノーイが魔術で作った連絡用の魚を海に放している。
ヴォジャノーイ族の戦士を呼んだのか。
あぁ……
確実に『奴ら』の気配だ。
「ついに来やがったな」
幸せな暮らしを壊しに来た『奴ら』に腹が立つ。
空に手を伸ばすと……
死の島の、ルゥに気づかれない場所に隠れて過ごしている緑色の小鳥が手にとまる。
いざという時に、ハーピー族と連絡をとる為に死の島に隠れていた小鳥……
ハーピー族長に急いで知らせてくれ!
ついに来たか。
この時が。
夜明け前の少し冷たい風が髪をなびかせる。
ヴォジャノーイが家に防御膜を張っているな。
ルゥの事を大切に想う気持ちが伝わってくる。
ヴォジャノーイは、ルゥが来るまでは生きているのを疑うくらい感情がなかった。
でもルゥが来てからは、毎日幸せそうに笑っていたよな。
絶対に守り抜く。
その想いが伝わってくる。
魚族長が波打ち際に魚族を大勢連れてやって来た。
魚族長は強いが、他の魚族は弱いからな。
早く援軍が来ればいいが。
オーク族は泳げないから、死の島までは来られない。
まったく……
オーク族は役立たずだな。
……オークは寝ているのか。
毎朝、早起きしてパンを焼いているからな。
気づいて家から出て来なければいいが。
オークは顔は怖いが、弱いしすぐ泣くからな。
安全な所にいた方がいい。
遠くの空にグリフォン族の大群が見える。
ルゥの父親が魔王だった時にハーピー族とグリフォン族が揉めて、今では全く交流がない。
海では、ウェアウルフ族が海の運び屋のレモラ族に乗って死の島に向かって来ている。
オーク族も何かに乗って来るって事を考えればいいのに。
バカな奴らだ。
ん?
何かするのか?
ヴォジャノーイが右手を前に伸ばし、魔法陣を空中に出した。
魔法陣がどんどん大きくなる。
魔法陣からグリフォン族に向けて大きな炎が発射された!?
おいおい。
たった一撃で、半分は減ったぞ。
さっきまで騒がしかった魚族達が静かになった。
……怖い奴だ。
そういえばルゥ以外には一切優しくないんだよな。
オークはバカだから、いつかヴォジャノーイに殺されるんじゃないかって思っていた時もあったな。
ルゥが来てからは、そうでもなくなったけど。
さてと、次はわたしの番だな。
空でグリフォン族を倒してくるか。
わたしはヴォジャノーイみたいに魔術を使えないからな。
音も無く、静かに空に向かう。
間近に迫ったグリフォン族を待ち構える。
いつもはルゥを撫でる手だが……
ハーピー族は翼の先にある手に鋭い爪を持っている。
空を飛びながらグリフォン族を爪で攻撃する。
ルゥに会うまでは、この翼で人間の子を温めて眠るなんて思いもしなかった。
……これは疲れそうだ。
今夜もルゥを抱っこして眠ろう。
空から砂浜を見るとヴォジャノーイが右手を伸ばし空中に魔法陣を出している。
ん?
また、やるのか?
風が巻き起こって、その中で氷の刃がグルグルと回っている?
あれをどうするつもりだ?
うわぁ……
次々にウェアウルフ族を切り刻んでいる。
普段は赤黒いヴォジャノーイの目が、赤く光って見えるような……
怖っ!
絶対に敵にしたらダメな奴だ。
ん?
海面から顔を出している魚族長が見える。
魚族長がヴォジャノーイを見て顔をひきつらせている?
お互い、見たくないものを見たな。
これからはヴォジャノーイの前では、おとなしくしていよう。
遠くの空に大勢のハーピー族が見えてきた。
やっと来たか。
さすがに、この数のグリフォン族の相手をわたしだけでするのはキツイ。
傷ついた脇腹から血が流れている。
……痛い。
ルゥが見たら悲しむ……
早く血が止まればいいが。
空から海を見ると、海中にヴォジャノーイ族の戦士達の姿が見える。
着いたのか。
ヴォジャノーイ族の戦士達が……
いつもルゥにまとわりついている奴もいるな。
普段は鼻の下を伸ばしてルゥにすり寄っているが、さすがヴォジャノーイ族の戦士だ。
次々に、海中にいるレモラ族を倒している。




