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ルゥ誕生の真実~前編~

今回は、ハデスが主役です。

 寝室に結界を張り、外に音が漏れないようにする。

 結界の中には、わたしとデメテルとベリアルがいる。


「デメテル……なぜそんな姿に……」


 一体何があったのだ?

 軟禁されていたはずだが……


「ハデス、久しぶりね……」


 白いヒヨコの姿のデメテルが話し始める。


「ヴォジャノーイ族に憑依させたわたしを恨んだでしょう?」


 ……確かに恨んでいた。

 ずっと恨み続けていた。

 だが、デメテルがペルセポネを愛していた事は分かっていた。

 わたしがデメテルから愛しい娘を奪ったのだ。

 

 もし今、わたしの目の前にルゥを奪おうとする者が現れたら尋常ではいられないだろう。

 追放し、憑依させるのではなく命を奪う。

 最も残忍な方法で……

 そして最後は消滅させる為に自害させる……

 冥界で幸せに過ごす事などあり得ないからな。


「ペルセポネはハデスを追放した七日後に自害したわ……ルゥと同じ方法でね」


 七日後……

 ペルセポネ……

 すまない。

 わたしのせいだ。


「わたしのせいよ……ハデスとの事を許せなかったから」


「デメテル……」


「ゼウスは、本当にダメなの。何をやらせても中途半端で、最後まで考えてから行動できないの。いつもその場しのぎで……」


 それは、よく分かる。

 その通りだ……


「ハデスとペルセポネの事も、わたしに怒られたくなくて黙っていたし。イナンナの事も……まさか人間の身体のお腹に、先代の神との子を戻すなんて。身体が耐えられるはずがないのは分かりきっているのに」


 まったく……

 後先考えない奴だからな……

 どうせ何も考えていなかったのだろう。


「わたしが、ずっと手助けをしていたの。集落で暮らすゼウスに気づかれないようにね……追放された天族の身体を使ってペルセポネの身体を作り始めた時には呆れ果てて言葉も出なかったわ……」


 全て知っていたのだな。

 

「いずれ『人間と魔族の世界』にペルセポネを受け入れられる、魂を持たない身体が見つかるその時まで……異世界にペルセポネの魂を隠しておいたのに……」


 異世界に隠しておいた?

 なぜだ?


「ペルセポネが自害した事はすぐに知れ渡ってしまったの。だから、ゼウスも時を戻して助ける事ができなかった。自害した肉体は冥界には行けない。身体も魂も消滅する。そうなる前に、魂だけでも異世界に逃がしたの。あの頃はまだ愚かな大天使達が大勢いたから……ペルセポネを生かす為にはそうするしかなかったの」


 そうだったのか……

 わたしに二度と会えなくする為にやった事だと弟は言っていたが……

 全て違ったな。


「そして『人間と魔族の世界』に数千年ぶりに聖女が産まれる事が分かったの。でも……過去に聖女を産んだ母親は、その神力に耐えきれずに亡くなっていた。だから、わたしは母体が出産に耐えられるように少しずつ神力を注ぎ続けていたの。母親が亡くなってしまったらかわいそうでしょう? ……そうしたのには理由があったの。今回の聖女は……お腹にいる時から魂がなかったの」


 魂がなかった?

 では……

 ルゥは聖女から身体を奪ってはいなかったのか……


「チャンスだと思ったわ。わたしは母体に神力を注ぎ続けた。まさか、母体があんな亡くなり方をするなんて……人間は残酷ね」


 確か側室だったルゥの母親は王妃の手下に連れ去られ、最終的に船でルゥと兄を産んだと聞いたが……


「王妃の手下に連れ去られた聖女の母親を、近くにいた海賊に見つけるよう仕向けたの。そうでなければ、母親もお腹の子も殺されていたわ」


 そうだったのか……

 

「王妃の手下は船に潜んでいて、母親が亡くなるのを確認すると産まれたばかりの聖女を連れ去ったの。わたしは、魂がなくて息をしていなかった聖女の身体に呼吸をさせるよう神力を使っていた。異世界のルーが寿命で亡くなってから魂を入れようと考えていたから。でも、連れ去られた聖女の身体は海に落ちて……呼吸が止まってしまったの。その時、ウリエルが異世界のルーの魂を聖女の肉体に憑依させた……」


 そんなにタイミング良く……?

 異世界でルゥが溺死したのは、弟が関わっていたようだが……


「驚いたわ……わたしが聖女の出産の騒ぎで目を離した隙に、ゼウスが異世界でルーを溺死させていたなんて……本当にゼウスは愚かよ……」 


 デメテル……

 そうだ。

 本当に弟は愚かだ……

 そして、ペルセポネを心から愛している……

『恐ろしいほどの執着』

 遥か昔……

 弟は、家族であるわたし達姉兄を何よりも大切にした。

 いや……

 依存。

 執着。

 そう言った方が近いか?

 弟は特殊な環境で育った事もあり姉兄と一瞬でも離れたくないと思うようなところがあった。

 ペルセポネが産まれてからはその感情は薄れていき……

 弟の愛の全てがペルセポネに向けられたようだった。

 普通の親の愛とは少し……

 いや、かなり違うのかもしれない。

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