魚族長と魔王城
「魔王様……」
お父さんの執務室に魚族長の声が聞こえると不思議な感じがする。
陸に上がれなくて辛い思いをする事はもうないんだね。
「……え? 魚族長? どうして……」
お父さんも驚いているね。
そういえば、お父さんも人間の姿になれたんだ。
二人とも願いが叶ったんだね。
「ハデス様に、神力で陸に上がれるようにしていただきました」
「ハデス様? 神力っていう事は天族なのかな?」
そうか……
お父さんは、まだ知らなかったんだ。
「お父さん、あのね……じいじは天使だったの。ヴォジャノーイ族に憑依させられていたんだって。神様が身体を返してくれたの」
「ええ!? ヴォジャノーイが天族!? そんな……まさか」
お父さんが、かなり驚いているね。
そうだよね。
わたしもすごく驚いたよ。
「ヴォジャノーイは……天界に帰るのかな?」
「ずっと幸せの島にいるって言っていたよ?」
「そうか、そうだよね。月海がいるから、ずっと島にいてくれるよね」
お父さんもハデスの事が大切なんだね。
すごく信頼しているから、わたしを預けたって言っていたし。
「あのね、お父さん。今日ヴォジャノーイ族のおじちゃん達とプリンを食べる宴をするの。その時に、魚族長が陸に上がれたお祝いもしたいんだ。お父さんも来られるかな?」
「もちろんだよ。魚族長のお祝いなら絶対に参加させてもらうよ。魚族長、よかったね。本当によかった……」
「……魔王様」
お父さんと魚族長を二人にさせてあげよう。
「わたし、マンドラゴラ達を見てくるね」
マンドラゴラ達は執務室の隣の部屋で寝ているはず。
そっと扉を開けると、ヒヨコちゃんの姿のベリアルとマンドラゴラ達がぴったりくっついて眠っている。
うわあぁ!
かわいいっ!
かわい過ぎる!
ずっと見ていられるよ。
幸せ……
かわい過ぎる寝姿にニヤニヤしていると、ハデスが部屋に入って来る。
「ルゥ……楽しそうだな」
「うん。すごくかわいいよ。見て?」
「……そうだな。ルゥの身体が落ち着いたら、わたし達も……」
ハデスが途中まで話して、わたしに微笑む。
……?
わたしとハデスも……?
何?
「子孫繁栄の実を食べて、子を授かろう」
え?
わたしとハデスの赤ちゃん?
「コウノトリがいないのに、どうやって赤ちゃんが来るのかな?」
不思議だよね……
「……ルゥのいた世界と、この世界では子を授かる方法が違うようだな」
「そうなの?」
子孫繁栄の実を食べたらすぐに妊娠するみたいだし、子孫繁栄の実がコウノトリなのかな?
「ルゥは何も心配しなくていい。わたしがゆっくり教えよう……」
ハデスがわたしを抱きしめる。
あれ?
いつもじいじからしていた匂いだ。
シャワーでも浴びて来たのかな?
いい匂いだ。
甘くて優しい匂い。
「ハデス……いい匂いだね」
「ん? そうか? シャワーを浴びて来たのだ。ずっと放置されていた身体だからな」
「せっけんの匂いなんだね。この匂い大好き……」
「……わたしも、ルゥの香りが好きだ……」
え?
わたしの匂い?
変な匂いじゃないよね?
「じいじ……? わたしの匂いって……」
「ルゥ? ハデスだよ」
ハデスが優しく口づけをする。
……!
すごくドキドキする。
今までは気持ちが高ぶっていると眠くなったけど、今は平気みたい。
ハデスもそう言っていたし……
「……おい。お前ら、教育上よろしくないな。マンドラゴラ達が見てるぞ?」
え?
ベットを見ると、ベリアルとマンドラゴラ達がわたしとハデスを見つめている。
うわあぁ!
見られていたの!?
恥ずかしい!
「キュキュイ?」
……?
何て言ったんだろう?
「聖女様、マンドラゴラは『いい匂いとはどんな匂いだ? 』と言っています」
あれ?
この声は……
「ウェアウルフ王?」
確か、王位を譲るから今日は来られないって言っていなかったかな?
魚族長とお父さんも後から部屋に入って来た。
「魔王に、必要な書類を提出しに来ました。魚族長……ハーピーから聞いたぞ? よかったな。これからは陸に上がれるのだな。おめでとう」
ウェアウルフ王も自分の事みたいに喜んでくれているね。
「ありがとうございます。ウェアウルフ王も、明日から幸せの島で暮らすのですね。これからよろしくお願いします」
そうか……
明日からは、ウェアウルフ王がずっと島にいてくれるんだ。




