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ハデスとして生きるという事

今回は、ハデスが主役です。

「ヴォジャノーイ……これからどうするんだ?」


 ルゥと魚族長が魔王城に向かうとすぐにハーピーが尋ねてきた。


「これからは、この姿で暮らしていく。この幸せの島でな……」


 もう天界にも冥界にも戻る必要はない。

 唯一の心残りであったペルセポネの事も分かったしな。


「ずっと……天族だった頃の記憶があったのか?」


「……ああ」 


 騙されていたから不快になったか?

 魔族は天族を嫌っているからな。


「辛かったな。ヴォジャノーイは怖いけど、悪い事ができる奴じゃない。どうせ罪を被せられたんだろう? 天族は酷いな」


 まさかハーピーに慰められるとはな……


「わたしは……天族の時に大切な存在を不幸にしてしまった。もう絶対に過ちを繰り返さない。これからは、この身体でルゥを守り抜く。そう決めたのだ」


 そうだ。

 もう二度と喪わない。


「そうか……もうヴォジャノーイじゃないんだな。天族なら名を呼んでも平気か。なんて名なんだ?」


「ハデスだ」

 

「ハデス……? 強そうな名だ。これからもよろしくな。さっきの黒い翼……なかなか良かったぞ」


 ハーピー……

 気を遣っているのか。

 元々ハーピーは不器用なだけで優しいからな。


「ヴォジャノーイ。これからもずっと一緒にいられるんだよね?」


 オークは昔から、わたしの事を怖がらなかった。

 不思議だな。

 他の魔族は皆怖がったのに……


「オークはヴォジャノーイ族の頃のわたしが怖くはなかったのか?」


「え? どうして怖いの? すごく優しい目をしていたから全然怖くなんてなかったよ」


 優しい瞳?

 わたしが?


「わたしの瞳は……優しかったか?」


「うん。すごく優しくて一緒にいると気持ちが落ち着くんだ。ルゥも同じ事を言っていたよ」


 ルゥが……?

 そうか。

 気持ちが落ち着く……か。


「うええん!」


 ハーピーの息子が起きたか……


「ん? 起きたか。わたし達は家に戻るぞ。じゃあな、ハデス」


 ハーピーとオークが家に戻ったな。


 一人きりになった砂浜は静かだ。

 波の音だけが聞こえてくる。

 魔族ではなくなったから遠くの音が聞こえなくなったな。

 常にルゥのそばにいなくては。

 何かあった時に気づけなくなってしまった。

 今までは、かなり離れていても聞こえていたが……


 ヴォジャノーイ王の仕事の手伝いもそろそろ辞める時が来たな。

 甥が王になってずいぶん経つ。

 わたしがいなくてもやっていけるだろう。


『ヴォジャノーイ族の身体』の妹に頼まれていたのだ。

 亡くなる間際に『息子を頼む』と……

 

 つい厳しくしてしまったが、甥は王として種族を束ねるには優し過ぎるからな。

 王は残酷なくらいでなければ務まらない地位だ。

 ただ優しいだけでは、すぐに心が壊れてしまう。

 忠臣ですら命を奪わなければいけない事もあるからな……

 今は、わたしが邪魔者を消したからヴォジャノーイ王国もだいぶ落ち着いたが。


 甥はリヴァイアサン族に奪われた海を取り戻そうとしているようだ。

 わたしはヴォジャノーイ族の身体ではあったが、魂は天族だ。

 数代前のヴォジャノーイ族長が海の半分を奪われたと聞いても、悔しくはなかったから取り戻しもしなかったが……

 まあ、信頼できる家臣に恵まれているから戦になっても負けはしないだろう。


 今日はヴォジャノーイ族の戦士達がルゥのプリンを食べに来る日か。

 わたしが天族だと知りどんな反応をするか……

 騙されたと怒り狂うか、それとも……

 まあ、騙していたのは事実だからな。

 甘んじて受け入れよう。

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