突然の奇襲~じいじが主役の物語~
『突然の奇襲』を、じいじの目線で書いたものです。
夜明け前、妙な気配に目を覚ます。
まさか『奴ら』か?
慌ててベットから出て着替える。
ルゥはまだ部屋で眠っているだろう。
静かに家から外に出る。
まだ肉眼では『奴ら』の姿を確認する事はできない。
だが、確実に死の島に近づいて来ているようだ。
魔術で出した連絡用の小魚を海に放す。
ヴォジャノーイ王に急いで知らせてくれ。
これで、すぐに援軍が来るだろう。
「ついに来やがったな」
ハーピーの低い声。
遠い空を見ながらハーピーが家から出て来る。
ハーピーが空に連絡用の小鳥を放す。
ついに始まる。
何があってもルゥを守る。
オークは寝かせておこう。
今のオークは、血を怖がるし優し過ぎて戦えない。
それに、オークが死んだらルゥは悲しくて耐えられないだろう。
次は防御膜だな。
攻撃と侵入者から守る水の膜を家に張る。
これで、かなり強い攻撃でなければ家は壊れない。
水の膜の中に侵入できるのもかなりの猛者だけだ。
普通の魔族では、膜から中に侵入する事はできない。
魚族長が異変に気づき、たくさんの魚族と共に波打ち際まで来る。
魚族は海水に身体がついていないと死んでしまうから陸には上がれない。
「ヴォジャノーイ様。姫様はご無事ですか?」
魚族長が尋ねてくる。
わたしが無言で頷くと……
来た!
遠くの空にたくさんの魔族が黒い塊となり飛んでいるのが見える。
あれは、ハーピー族ではない。
ワシの頭にライオンの身体。
大きな翼を持つグリフォン族だ。
海面には、海の運び屋のレモラ族に乗ったウェアウルフ族が大勢見える。
こんな事になると分かっていたら、ルゥをヴォジャノーイ王宮に連れて行き保護させたのに。
わたしがルゥを手離せなくて起きた結果がこれだ。
幸い、今見える敵は魔術が使えず物理攻撃しかできない。
夜明けまでに全て倒し、ルゥが起きるまでに終わらせる!
波打ち際の魚族達がザワザワしている。
今、島で戦闘力が高いのはわたしとハーピーと魚族長だけだ。
魚族自体は弱いからな。
援軍が到着するまで、三人であの大量の敵と戦うのか。
ハーピーと魚族長は魔術を使えない。
とりあえず、先に死の島に到着しそうな空のグリフォン族を火で焼きはらうか。
右手を前に伸ばし、魔法陣を空中に描く。
魔法陣をどんどん大きくする。
充分、引きつけたな。
今だ!
魔法陣からグリフォン族に向けて大きな炎が発射される。
先程まで騒がしかった魚族達が静かになったな。
よし、半分は減らせた。
空はハーピーに任せよう。
わたしは陸。
魚族長は海だ。
魚族達も必死に戦ってはいるがウェアウルフ族の剣や拳の攻撃には勝てないか。
陸に大勢のウェアウルフ族が上がってくる。
ハーピーは空でグリフォン族と戦っている。
魚族長は海中でレモラ族と戦っているようだ。
海水が血で赤く染まっている。
ルゥが悲しむな。
美しい海が汚れてしまった。
……さぁ。
ウェアウルフ族よ。
最恐のヴォジャノーイと呼ばれた、このわたしが全滅させてやろう!
右手を伸ばし空中に魔法陣を描く。
今度は風と氷だ!
風を巻き起こし、その中で氷の刃がグルグルと回りウェアウルフ族を切り刻んでいく。
遠くの空に大勢のハーピー族が見えてきた。
よし、空はもう大丈夫だ。
魚族長はどうだ?
「遅れて申し訳ありません!」
八人のヴォジャノーイ族の戦士が陸に上がって来る。
着いたか。
ヴォジャノーイの戦士達よ。
あとはルゥが起きてくる前に、敵を殲滅して汚れた場所を綺麗にすれば終わりだ。
島に血の匂いが立ち込めている。
オークが育てた畑も花もめちゃくちゃだな。
元通りになるのか?
敵を全て倒してからオークを連れて来て元通りにさせよう。
ドオン!
ドオン!
海に大砲の弾が撃ち込まれた……?
何だ?
人間の船か?
大砲で攻撃している?
なぜ?
「何だ? あれは!」
誰かが叫んだ。
魔族の戦っている手が止まる。
家から、美しい光がキラキラと空に突き抜けている。
これは……?
「この光は! 大昔に見た事がある! 人間の聖女だ!」
一人のウェアウルフが叫んだ。
聖女?
聖女の伝説は知っている。
大昔、魔族の戦いがあった。
最終的に取り返しがつかないほど傷ついてしまった魔族を聖女の光が癒した。
その後は、魔族は適度に人間と距離を保ち暮らすようになった。
聖女は人間にとっても魔族にとっても大切な存在だ。
だが、なぜその光が家の中から?
まさか、ルゥが……
聖女!?
確かに光の魔術を使えるが。
だがルゥは魔王様の娘で……
「魔王の息子を殺して、家の中にいる聖女を連れて帰るぞ!」
ウェアウルフが叫んだが……
魔王様の息子?
何の事だ?
また戦いが始まる。
ドオン!
ドオン!
また人間の船が死の島を攻撃したな。
なぜ人間がここにいる?
何がしたいのだ?
「もうやめて!」
死の島にルゥの叫び声が響く。
声のする方を見るとルゥが涙を流しながら血まみれで立っている。
まさか、家に敵が侵入していたのか?
怪我をしたのか?
「「ルゥ!」」
わたしとハーピーの声が重なる。
ルゥに駆け寄ると血まみれの身体が震えている。
「怪我をしたのか? じいじに見せてごらん」
ルゥの震える身体を優しく抱きしめる。
「じいじ。パパが、パパが……」
オーク?
ルゥの腕の中に緑色の小さい生き物がいる。
オークなのか?
なぜ小さくなっている?
「じいじ、どうすればいい? わたしにできる事はある?」
ルゥが真剣な目をしている。
ついに魔王様の娘だと話す時が来たのか。
ハーピーと目が合う。
ハーピーも同じ考えか。
先程からルゥの魅了の力でわたしとハーピー、オーク、一部のヴォジャノーイの戦士以外の動きが止まっている。
ルゥの魅了は、好意を抱き見とれてしまうという力だ。
魅了は一人につき一度だけしか使えない。
わたし達家族は初めて会った時に一度魅了されているからもう大丈夫だ。
話すなら今……か。
「うえぇーん!」
オークが泣き始めた?
ハーピーが覗いたからか?
オークを抱いているルゥの手から砂浜に血が流れ落ちる。
やはり怪我をしている。
早く治療をしないと!
……?
何だ?
ルゥの血が落ちた場所が光り始めた……
光が広がっていき、温かい光が死の島を包み込んだ。
これは一体?
それに……
傷が治った?
「傷が治っているぞ? ハーピーはどうだ?」
ハーピーも不思議そうに傷が治った所を触っている。
ルゥは聖女なのか?
傷つき倒れていた魔族達が立ち上がり、ルゥを見ている。
……まさか。
死者が蘇った?
こんな事ができるのは天……
いや、まさかそんなはずは……
ルゥは人間だ……
これが……聖女……?
この場にいる全員が思っているはずだ。
ルゥが聖女だと。
ルゥがオークを見ながら真剣な顔をしている。
ルゥもこの奇跡が自分の力だと分かったのか?
「じいじ、ママ。わたし分かっちゃった!」
目を輝かせながら大声を出して……
そうか自分が聖女かもしれないと……
「あのね、あのね。パパ、聖女かもしれないよ?」
……?
え?
何を言っているのだ?
死の島にいる、赤ん坊になったオーク以外の全ての魔族がルゥの言葉に首を傾げた。




