今度こそ幸せになろう~後編~
今回は、じいじが主役です。
「ルーは話を全て聞き終えた後、一人になりたいと言った。しばらくしてハデスが血の匂いに気づき部屋に入るとベットの上掛けが赤く染まっていて……めくると大量出血した姿の……」
「黙れ! 聞きたくない……」
弟は何を言っているのだ?
ルゥが自害……?
ダメだ……
絶対にダメだ!
「ルーが今から部屋に入って来る。時を戻す前、ハデスはルーに全てを話していた。ハデス……もうルーに話してはいけない。これ以上、時を戻せば時空の歪みを誰かに気づかれてしまうかもしれない」
そんな……
わたしが話せばルゥが自害するのか?
「わたしも同席していいか? ルーの不安を取り除いてあげたい。話すのはハデスがわたしの兄で、無実の罪で追放されていて身体を取り戻す事になった……それだけだ」
そうするしかなさそうだ。
ルゥが死んでしまうなんて、考えもしなかった。
ベットの中で血まみれ……?
部屋に血が飛び散らないようにしたのか。
部屋の片付けが楽なように……
最期までわたしに気を遣ったのか。
ルゥ……
「今は帰ったが……デメテルもそう望んでいるだろう……ハデスに、ルーの異変を知らせたのは軟禁中のデメテルだった……小さな光を飛ばしてな……」
小さな光?
何の事だ?
デメテルが来ていたのか?
「じいじ……話って……あれ? 神様?」
ルゥがリビングに入って来た……
「ルゥ!」
力強くルゥを抱きしめる。
「じいじ……? どうしたの? 泣いているの?」
涙が止まらないわたしをルゥが心配している。
生きている……
……よかった。
わたしにはルゥが自害した記憶はないが、身体に違和感はある。
弟が時を戻したというのは本当だろう。
絶対に自害はさせない。
ルゥを喪うくらいなら、永遠に嘘をつき続ける方がマシだ。
「ルーよ……ヴォジャノーイは天族だったのだ。そして、わたしの兄でもある」
弟がゆっくり話し始めた。
最後に会った数千年前は、もっと幼く感じられたが……
成長したのだな……
「え? 神様のお兄ちゃん? じいじは、すごく偉い天使だったの?」
「ああ、そうだ。手違いで追放されてしまってな。今夜、身体を返す事になっている」
「……じいじは天界に帰るの?」
「いや、兄はルーの事を愛しているから、ずっとそばにいたいらしい」
「わたしはじいじの幸せの邪魔をしているのかな? 本当は天界に帰りたいんじゃないのかな?」
ルゥが申し訳なさそうな顔をしている。
わたしは天界にも冥界にも戻るつもりはない。
もう二度とルゥを喪いたくないのだ。
「ルゥ……そんな事はない。じいじの幸せは、いつもこの幸せの島にあるのだ」
この気持ちに嘘はない……
「じいじ……」
「ルゥ、お願いだ……ずっとじいじのそばにいて欲しい。じいじを独りにしないでくれ」
「……? うん。ずっとじいじのそばにいるよ?」
ルゥ、約束だ。
もうわたしを置いて逝かないでくれ。
「では、今から身体を返そう」
弟の手のひらから、まばゆい光が溢れ出す。
眩し過ぎて開けられなかった目がやっと開くと……
そこには、わたしの……
ハデスの身体がある。
黒い髪、黒い瞳……
血に染まった赤黒い翼。
全てあの時のままだ。
「うわぁ……じいじは黒い髪に黒い瞳だったんだね。わたしの前世の時と同じだね」
血にまみれた翼を見ても怯えないのか。
ハーピーも翼を血で染めているからか?
「じいじは今から元の身体に戻るんだよね? 今のヴォジャノーイ族の身体はどうなるの?」
ルゥはヴォジャノーイ族の姿の方がいいのか?
醜いカエルなのに……
「わたしが預かっておこう。ルーにはヴォジャノーイ族の身体とのたくさんの思い出があるのだろう?」
弟がヴォジャノーイ族の身体を預かるのか……
またいつでもヴォジャノーイ族の身体に戻れるという事か。
「うん! じいじは、いつもかっこよくて強くて……すごく大好きなの」
頬を赤くして恥ずかしがる姿は、いつも通りのルゥだ。
よかった。
生きていてくれて本当によかった。
「では魂を入れ替えよう」
こうして、わたしはハデスの身体を取り戻した。
そして、わたしは弟から聞いた出生の秘密をルゥには絶対に話さないと決めた。
ベリアルにも話すなと言っておかなければ。
これからは、今まで以上にルゥの幸せだけを願って生きていくのだ。
必ず幸せにする。
必ず……




