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今度こそ幸せになろう~前編~

今回は、じいじが主役です。

「最後まで落ち着いて聞いてくれ。ルゥ……わたし達は、冥界で共に暮らしていたのだ」


 そうだ。

 わたし達は冥界で互いを尊重し、愛し合いながら幸せに暮らしていた。


 それから、わたしは昨日弟から聞いた事を全て話した。


 ルゥは、ただ黙って聞いていた。

 初めは驚いた顔をしていたが、話を聞き終える頃には虚ろな目になっていた。

 そして、最後まで聞き終えるとこう言った。


「じいじ……少し一人になって考えたいの。寝室に戻るね」


 わたしは寝室に入った時、ルゥにどう話しかけるかを考えていた。

 励ますべきか……?

 黙って抱きしめるべきか?


 ……?

 リビングの中に、小さな光が点滅している?

 なんだ?

 初めて見る光だ。

 

 いつも賑やかなリビングの静けさに、突然不安になる。

 

 ……?

 血の匂い?

 なんだ?

 ベリアルは気を利かせてマンドラゴラ達と寝るからと魔王城に行っている。

 ハーピーとオークが肉でも食べているのか?


 いや、違う。

 血の匂いは、この家の中からしてくる……

 聖女のルゥの甘い血の匂い……?


 まさか……  

 ルゥ?

 怪我でもしたのか?


 慌てて寝室に入る。


 ……?

 どこにもいない。

 ルゥはどこに行った?


 なんだ?

 ベットの真っ白い上掛けが赤くなっている?


 ……嘘だ。

 違う。

 そんなはずはない。


 ベットに近づこうとするが……

 ダメだ……

 足が動かない。

 

 違う……

 違う……

 ルゥの血のはずがない。

 

 震える手で上掛けをめくる。


 ルゥ……?


 どうして血まみれなのだ?

 どうして目を開けたまま閉じない?

 どこを見ている?

 わたしを見てくれ……


 ルゥの血まみれの頬を撫でる。


 こんなに血が……

 だが、痛がる息づかいも声も聞こえてこなかった。

 誰にも気づかれぬように声を出さなかったのか?

 確実に死にたかったのか……

 ルゥ……

 生きている事に絶望したのか……

 わたしのせいだ。

 わたしが話さなければこんな事には……


 独りでは逝かせない。

 わたしも今から逝く……

 

 独り残されるのは耐えられない。

 ……ペルセポネ、君もこんなに寂しかったのか。


 もしも……

 もしも、また生まれ変われるのなら……

 今度は何も背負わず……

 ただ穏やかに……




「……ハデス!」



 ……?

 なんだ?

 今、妙な感じがした?


 わたしは今、弟から聞いた事をルゥに話す為にリビングのソファーに一人で座っている……はずだった。

 一人きりでリビングにいたのに……

 弟が慌てた様子で話しかけてきた……?


「ハデス……落ち着いて聞いて欲しい。昨日の話をルーにしてはいけない。……時を戻した。と言っても幸せの島の、この家の中の時間だけを……」


 ……?

 何故だ?

 何故時を戻したのだ?

 と言うより、わたしはルゥが来るのをリビングで一人で待っていたはずだ。

 弟は、いつリビングに入って来た?


「昨日の話を聞いたルーが自害した……だが、ルーの死はわたしとハデスしか気づいていなかった。時を戻された者には多少の違和感があるが、今この家にはわたし達しかいない。いくら神でも、生死が関わる時間を戻してはいけない……だが我ら二人が黙っていれば済む事だ。今から、ルーが死んだ後の時間になったら時を進めて元の時間に戻そう」


「ルゥが自害……? そんな……」


 何があった?

 出生の秘密が辛過ぎて耐えられなかったのか……?

 ルゥが死んだ後の時間に、今のルゥが生きていれば生き続ける事ができるのか?

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