話すべき事
誕生日の宴が終わった深夜___
わたしは、じいじにリビングに呼び出されていた。
どうしたのかな?
寝室では話せないのかな?
リビングに入ると、じいじがソファーに一人で座っている。
「じいじ……話って何かな? あれ? ベリアルはいないんだね」
リビングに呼び出したからベリアルもいるのかと思ったけど……
「ルゥ……ひとつ話さなければいけない事がある」
じいじ……?
もしかして、最近様子がおかしかった事かな?
わたしにも話してくれるんだね。
「うん……何かな?」
じいじが水でできた防御膜を張った。
あれ?
誰にも聞かれたくないのかな?
防御膜を張ると膜の外に音が漏れないんだよね。
「実は……じいじは追放された天族なのだ。神に、天族だった頃の身体を返すと言われている」
え?
じいじ?
天族だったって、どういう事?
追放されたって……
悪い大天使に罪を被せられたのかな?
ヴォジャノーイ族に憑依したの?
「じいじは、天族の身体を取り戻したいのだ。ルゥは今の姿のままでもいいと言ってくれたが、天族の姿に戻りたい……」
じいじはヴォジャノーイ族の姿が醜いって言っていたけど……
そんな事はないよ。
じいじは、いつでも素敵だよ。
「じいじ……? わたしには、よく分からないよ」
天使の姿に戻って天界に帰りたいのかな?
でも……
わたしは人間だけど天界に行けるのかな?
そういえば、じいじが一緒に来るかって訊いてくれたけど……
「ルゥは……覚えていないのか……?」
じいじが辛そうな顔をしている。
わたし……
何か忘れているのかな?
なんだろう?
「ペルセポネ……」
ペルセ……?
何?
「ルゥ……ハデスという名を覚えていないか?」
ハデス?
誰の事だろう?
ヴォジャノーイ族のじいじの名前?
魔族の名前だったら種族だけの秘密だから、わたしには分からないよ。
「じいじは、ルゥの隣に立つのにふさわしい姿になりたいのだ。それに……どんなに辛い事でも二人なら乗り越えられると信じている」
ふさわしい姿?
辛い事?
「遥か昔、じいじはヴォジャノーイ族の腹の子に憑依させられた。それから、族長の座を得て複数の種族を束ねヴォジャノーイ王となった」
「じいじは、どうして追放されたの? 悪い大天使にやられたの?」
じいじも被害者だったのかな?
「……ルゥ、これから話す事はルゥの心を傷つけてしまうかもしれない。だが、これは避けては通れない事だ」
わたしを傷つける?
わたしも関係しているの?
なんだろう……
聞くのが怖い。
「じいじ……あのね。その話を聞く前に話しておきたい事があるの」
ずっとあった違和感。
そう。
たぶんわたしは、ばあばとひとつじゃなかった。
ばあばに対する感情は、懐かしくて温かくて。
でも寂しい気持ち……
心の奥で何かが溢れ出してきそうな感覚。
それに、さっき砂嵐みたいな向こうに見えた天使は誰?
もしかして、わたしはイナンナさんの子孫じゃないのかも……
前世のおばあちゃんにイナンナさんの記憶があったのは生まれ変わりじゃなくて、イナンナさんの記憶を代々受け継いでいたからだって神様が言っていたらしい。
おばあちゃんが亡くなってわたしが記憶を受け継いでいるはずなのに、わたしにはその記憶がない。
お父さんは、おばあちゃんが生きているうちに亡くなったから記憶は受け継いでいないのかも。
じゃあイナンナさんの記憶はどこに消えたの?
それに神様が過去を見せてくれた時のわたしの姿……
髪色が白いからイナンナさんの魂の姿だと思っていたけど、ばあばの真っ白の髪と違って微妙に銀色にも見えた。
「じいじ、わたしね……神様に会ったの。夢の中だけど……」
「神に会った? いつ? どういう事だ?」
「神様が、おじいちゃんとイナンナさんの過去を見せてくれたの」
「……神は何か言っていたか?」
「これからは幸せに暮らしなさいって言われたよ?」
「それ以外に何か言っていなかったか?」
それ以外?
確か……
「大天使がイナンナさんの身体から取り出した赤ちゃんを、人間になったイナンナさんの身体に戻したって言っていたよ? あとは、何も言っていなかった……」
「そうか……」
じいじ?
どうしたのかな?
「じいじ? 何かあったの?」
怖いけど、じいじが話してくれるんだからちゃんと聞かないと。
「ルゥ、全てを話す前に分かっておいて欲しい事がある」
「うん……何?」
「じいじがルゥを大切だと思うのは、ルゥを愛しているからだ。それから、ルゥは何も悪くない」
じいじ……?
何かよくない事を話すの?
最近ずっと、じいじがいなくなりそうで怖かった。
もう、一緒にいられなくなるの?
「最後まで落ち着いて聞いてくれ。ルゥ……わたし達は、冥界で共に暮らしていたのだ」
冥界……?
何?
じいじの真剣な顔に胸が苦しくなる。
……怖いよ。
何を話そうとしているの?




