ハデスとペルセポネ(6)
今回は、じいじが主役です。
デメテルは醜い姿になったわたしをペルセポネが愛するはずはないと考えたのか……
だが、ペルセポネは一緒にいたいと考えてくれた。
自害……
痛かっただろう。
苦しかっただろう。
すまない……
ペルセポネ赦してくれ。
わたしの為に死を選んだというのに……
わたしはルゥを愛してしまった。
酷い男だ。
ペルセポネとルゥが同じ魂だとしても、わたしがペルセポネを裏切った事に変わりはない。
デメテルは、ルゥがこの世界に来た時から軟禁されているのか……
ペルセポネを奪ったわたしが憎いだろう。
そんなわたしとルゥが共に暮らす姿を見るのは辛かったはずだ。
「もうひとつ話しておく事がある。聖女の身体だが……あれはデメテルの仕業だ。聖女の出産に耐えられる身体を探していたデメテルは聖女の母親になれる者を探し当てた。そして、母親に少しずつ神力を注ぎ続け、ペルセポネの魂の入れ物として聖女を産ませた。元々聖女は一定の周期で産まれてくるものだ。わたしは、それを待ちきれず異世界で身体を作りだしたがな……それに並の聖女ではペルセポネの魂には耐えられない。デメテルが神力を注がなければ、聖女の身体でもペルセポネの魂を受け入れられなかっただろう」
そういえば、ルゥが異世界で亡くなりこの世界に来る事が何故分かった?
未来を見て来たのか?
「異世界の人間のルーの身体では、ペルセポネの魂を完全に受け入れる事ができないのは分かりきっていた。わたしは一度だけペルセポネの未来を覗きに行った事がある。だから、いずれ魔族の世界に生まれ変わる事は分かっていたのだ。だが、少しでも早く身体に入れてあげたかった……デメテルは、わたしが異世界で天族の子を産ませ続けていた事を知らなかった。『人間と魔族の世界』にもペルセポネの魂を受け入れる事ができる身体を持つ者が現れその身体がルーよりも強い神力を持っていれば、そちらに魂を移そうと考えていた。デメテルがペルセポネの魂を受け入れられる聖女を作りだそうとしているのも知っていた。もちろんデメテルにはわたしの考えは秘密にしていたし、デメテルのしている事も気づかぬ振りをしていた」
恐ろしい話だ。
ペルセポネを復活させる為に利用できるものは全て利用したのか……
異世界にいた頃のルゥを、ただの入れ物としか考えていなかったのか。
今のルゥも、弟やデメテルにとっては入れ物なのか?
なんて嫌な話だ。
ルゥは異世界でも、そして今も懸命に生きているというのに。
ルゥ……
かわいそうに。
これはペルセポネが望む幸せだとは思えない。
もちろんペルセポネには生きていて欲しいと思う。
だが……
心優しいペルセポネやルゥがこの真実を知って耐えられるのか?
「では、明日の深夜に身体を返そう」
明日の深夜か。
ルゥの誕生の宴の後だな。
「だが、この『人間と魔族の世界』と天界とは時間の流れが違うはずだ。明日の深夜という時間は絶対なのか?」
数年後の可能性もあるのではないか?
「あぁ、その事か。その時間のズレはわたしがやっていた事だ。異世界の集落での事を邪魔されない為にわたしが時間をずらしていた。世界を移動する時に時間をずらすのは簡単だからな」
そうだったのか。
そこまでしてペルセポネに合う身体を作りだそうとしていたのか。
「……ルゥをただの入れ物として考えているのか?」
「わたしは集落でルーを守り続けてきた。もちろんかわいくて堪らない……だがペルセポネを……わたしの愛しい娘をどうしても蘇らせたかった。疎まれても構わない。わたしは、娘を蘇らせる為ならなんだってする」
辛そうな顔をしている。
お前は優しいからな。
心が痛んでいるのだろう……
それに、ペルセポネではなくルーと呼んでいる。
ルゥの人格を大切にしてくれているのが分かる。
わたしは永遠にペルセポネだけを愛すると誓ったのに、ルゥに心変わりした。
同じ魂だとしても別の女性だ。
わたしはペルセポネを裏切ったのだ。
ずっとペルセポネを愛し続けている弟達を責める事はできない……
「では、また明日会いに来る」
明日か……
ハデスの身体を返される前にルゥに全てを話そう。
明日の宴が終わった後に。
出生の事はルゥにとって辛い事実だが……
時間をかけてゆっくり受け入れてもらうしかない……
わたしがずっと支えていく。
わたし達の幸せを、もう誰にも邪魔はさせない。




