王子と人魚姫の秘密~後編~
『突然の奇襲』につながる物語です。
人間の王子が主役です。
大量の魔族?
皆が甲板に出て来る。
遠くに死の島が小さく見えるが……
これは!
今まで見た事が無いくらいの大量の魔族が、死の島の空と陸を埋め尽くしている。
そういえば、今日はすんなりこの海域に入れたな。
この辺りは波が荒く魚族も多いから船が沈没しやすいというのに。
まさか、この辺りの魔族が死の島に集まっているのか?
一体何が起きているんだ?
「まさか、あそこにミルフィニアがいるの?」
おばあ様がガタガタと震えながら声を絞り出す。
人魚姫……
本当にそこにいるのか?
……どうしたらいい?
あの大量の魔族。
人の我々などあっという間に食べられてしまう。
人魚姫……
どうか無事でいてくれ。
おばあ様が覚悟を決めた顔で口を開いた。
「行きましょう。死の島へ」
おばあ様……?
船員や執事、侍女までもが覚悟を決めたようにおばあ様を見つめている。
この船にいる人達は全員が高齢だ。
行方が分からない子を捜す為に、叔母様を慕う者達が志願して船に乗っているようだ。
この姿を見て初めて分かった。
この場にいる人達は、おばあ様と共に命がけで捜していたんだ。
まだ見ぬ、失った子を。
「行きましょう。おばあ様。何が起きているかは分かりませんが、行ってミルフィニアを捜しましょう」
おばあ様が、わたしの言葉に大きく頷く。
「皆、よくここまで付いて来てくれた。さぁ、最後の大仕事! ミルフィニアに会いに行こう!」
おばあ様の姿が勇ましく輝いている。
「「おおー!」」
船にいる全員の心がひとつになった。
リュートもマクスもわたしを見て頷く。
あぁ……
また、危険に巻き込んでしまった……
「すまない。またこんな事になって……」
「どこまでも、付いて行きます」
「そうですよ。この前だって生きて帰ったんですから、今回だって大丈夫ですよ」
マクス、リュート……
ありがとう。
二人の存在にどれだけ助けられているか……
絶対に生きて帰ろう。
絶対に!
船で行けるギリギリまで進む。
ここからは手漕ぎの小舟で進む事になるが……
「おばあ様、ここからはわたし達だけで行きます」
さすがにこれ以上は、おばあ様達には危険過ぎる。
死の島に人魚姫がいないと確認だけして……
ドオン!
ドオン!
え?
今のは?
うわ!?
船が酷く揺れる。
まさか……
大砲を撃った!?
なぜこのタイミングで!?
船長がやらせたのか?
いや、違う。
おばあ様!?
「あはは! どんどん撃ち込め!」
ええっ!?
おばあ様!?
今なんて言いました!?
マクスもリュートも驚いた顔をしている。
さすが、血の気が多いと言われる国の王太后!
おばあ様だけではない。
この船の人達は皆、高齢なのに急に元気になった?
重い大砲の弾を力を合わせて運んでいる。
すごい迫力だ。
でも、死の島に人魚姫がいたら大変な事になるのでは?
……?
あれは……?
死の島に光の柱のような物が見える。
あれは何だ?
「おばあ様、死の島で何か光っています!」
おかしなテンションになっているおばあ様に叫んだが……
「よぉし! 次いくぞ!」
おばあ様……
次って……
また、撃つんですか?
ダメだ。
全く聞こえていない。
ドオン!
ドオン!
おばあ様!
また撃った!
「あれは何だ?」
死の島の光に、ようやくおばあ様が気づいた。
今度は、死の島全体が光に包まれていく。
戦っていた魔族達が動かなくなった?
船にいる我々も、不思議で美しい光景に手が止まる。
何が起きているんだ?
「ミルフィニア!」
望遠鏡で死の島を見ていたおばあ様の声が船に響く。
ミルフィニア?
まさか……
人魚姫?
目を凝らすが何も見えない。
本当に『ミルフィニア』がいるのか?
おばあ様が泣きながら座り込み、手から望遠鏡が落ちる。
足元に転がってきた望遠鏡で死の島を見ると……
……!?
あれは!
輝くように美しい青い瞳。
左耳には人魚姫のつけていた青い宝石。
手には何かを抱えている?
髪も顔も身体も血まみれだ。
あれは、あの時の人魚姫なのか?
よく分からないな。
すごい血だ。
怪我をしたのか?
まさか大砲のせい?
望遠鏡を持つ手が震える。
おばあ様が執事に支えられながら震える足で立ち上がり、わたしの持つ望遠鏡を取り返した。
「ああっ!? 大変だ! 死の島に乗り込むぞ! 魚人族と鳥人族が……ミルフィニアが危ない!」
望遠鏡で死の島を見たおばあ様が大声を出す。
だが、これ以上は陸が邪魔してこの船では進めない。
皆で小舟に乗り込み死の島に向かう事になったが……
人魚姫……
どうか、無事でいてくれ。




