ハデスとペルセポネ(2)
今回は、じいじが主役です。
わたしは魔王様に頼まれた。
その娘の『じいじ』として、そばで守って欲しいと。
天族の家族はわたしを見捨てたのだろう。
ヴォジャノーイ族になってからの家族は妹と、妹の息子である甥だけだった。
その妹も、ずいぶん前に亡くなった。
わたしには家族の愛など分からない。
こんなわたしに、魔王様の娘を守る事ができるのだろうか……
そして、ルゥは現れた。
小さく、甘えん坊のルゥは……
いつの間にか、わたしの最愛の人になっていた。
ヴォジャノーイ族に憑依した後も、ずっとペルセポネだけを愛し続けていたが……
ペルセポネに誓った永遠の愛は、もうわたしの中から消えていた。
それに、天族には裏切られたという感情しかなかった。
ルゥは言ってくれた。
今の、このヴォジャノーイ族の姿を醜いとは思わないと。
だがわたしは、かつての天族の美しい姿の方がルゥのつがいにふさわしいと思っていた。
天界に帰れなかったとしても、あの身体だけでも返してもらえないだろうか。
いつの間にか、わたしはその事ばかりを考えるようになった。
そんな時、あいつが現れた。
大天使ウリエルが……
ベリアルの暴走を止める為に魔王様やルゥを異世界から転移させた……?
久々に見た天族……
あまりに身勝手な考えに、さらに天族を憎んだ。
そして……
まさか、ベリアルが堕天使になっていたなんて。
ベリアルはヴォジャノーイ族の姿になっているわたしに気づいていないようだった。
まだわたしが冥王になる前、ベリアルはわたしの側付きだった。
だが、わたしが冥王として冥界へ行く事になった時ベリアルは天界に残る事になった。
あのベリアルが堕天使に……?
一体、天界で何が起きているのだ?
ベリアルは、闇と光が入り混じっている空間に閉じ込められていた。
魔族の身体のわたしにはとても耐えられない空間だ。
ベリアルは、これから授かるであろうルゥとわたしの子に勇者を憑依させると言ってきた。
そして、ルゥの一番触れてはいけない部分に触れてしまった。
「誰かと思ったら勇者の母親か。お前の腹の子をこの勇者が乗っ取ってやるからな。どうだ? 嬉しいか? 自分の子を憑依の入れ物にされる気持ちはどうだ?」
ルゥは聖女の身体に憑依している事を申し訳なく思っていた。
勝手に身体を使ってしまっていると……
わたしはヴォジャノーイ族に憑依してもそんな風に考える事はなかった。
ただ、醜い姿になったと嘆いたくらいだったのに……
ベリアルの言葉に涙を流すルゥの姿に耐えられなかった。
わたしはベリアルを殺す覚悟を決めた。
天族殺しは重罪か……
面白い。
このブレスレットがあれば天界に行けるかもしれない。
天界にいる全ての天族を皆殺しにしてやる。
だが、わたしはブレスレットを壊され幸せの島に帰ってしまった。
ルゥはわたしに天族殺しをさせない為に、自らベリアルを殺すと言った。
わたしは魔族だから天界には行けない。
たった今、ルゥが天族殺しの重罪を犯そうとしているのに……
無力な自分に腹が立った。
かつてのわたしは冥王だったのに。
ペルセポネを……
愛する人を手に入れたいと願っただけなのに……
今度はルゥまで失うのか……
だが、ルゥはベリアルを殺さずに帰って来た。
シームルグの話によれば、ウリエルではない天族もいたらしい。
もしかしたら……
ペルセポネ……?
いや……
そんなはずはないか。
そして、ベリアルがヒヨコになり幸せの島で暮らす事になった。
天族だった頃の記憶もなく、言葉も話さないベリアルは普通のヒヨコのように見えた。
しばらくして、ルゥの命の危機が訪れた時……
わたしの前に現れた神は弟ではなかった。




