十五歳の誕生日(9)
「聖女様がそんな事を……」
グリフォン王がわたしの目の前に歩いて来る。
「グリフォン王?」
「聖女様……わたしは、聖女様と過ごした日々を決して忘れません。聖女様はわたしにとって、かわいい妹でした……」
グリフォン王が泣いているわたしのほっぺたを、かわいい肉球で優しく撫でてくれる。
「聖女様……わたしは旅に出ますが、これはお別れではありません。わたしが世界中で見て来た楽しい思い出を必ず話しに来ます。その時には、聖女様の楽しかった出来事をたくさん聞かせてください」
グリフォン王……
「ごめんね。泣かないって決めていたのに……」
「旅立つ前にもう一度会いに来ます。その時は聖女様の笑顔をお見せください」
「うん……」
グリフォン王の大きい猫みたいな身体に抱きつく。
次に会う時は、パートナーさんもいるかもしれないからもう抱きつけないよね。
「それでは、聖女様」
グリフォン王と従者の二人が、ドワーフのおじいちゃんと帰って行く。
「ルゥちゃん……おばあ様達も帰るわね。おばあ様はいつもルゥちゃんの幸せを願っているわ」
おばあ様が優しく抱きしめてくれる。
「ルゥ、また遊びに来るからね。贈り物を島に隠しておいたよ? 後で皆で探してね?」
お兄様……?
いつの間に隠したのかな?
「わたし達からの贈り物はガゼボの中にあるからね」
「うん……レオンハルト、ありがとう」
こうして、おばあ様達も人間の国に帰って行った。
急に静かになったな……
心がグーって押し潰されているみたいに苦しい。
「キュキュイ?」
マンドラゴラの赤ちゃんが、わたしのドレスの裾を引っ張っている。
心配してくれたのかな?
小さい身体を抱き上げると、手足をバタバタさせて嬉しそうにしている。
「笑わないとダメだよね……ありがとう。慰めてくれたんだね」
「キュキュイ!」
……?
なんだろう?
赤ちゃんがソワソワしている?
「聖女様、マンドラゴラは宝探しがしたいと言っています」
「ウェアウルフ王? 宝探しって……?」
「お兄様が隠していった贈り物です」
ああ……
赤ちゃんは、わたしを心配してくれたんじゃなかったのか……
でも、かわいいから抱っこしただけで幸せな気持ちになったよ。
「月海、リコリス王はプレゼントをたくさん隠したみたいだよ? マンドラゴラ達のおもちゃもあるらしいよ」
「「キュキュイ!」」
お父さんの言葉にマンドラゴラの赤ちゃんとお姉ちゃんが喜んでいる。
お兄様……
皆が帰った後に、わたしが寂しくないようにしてくれたのかな?
「……よし! 皆で宝探しをしよう!」
もう泣かないよ。
皆で笑って過ごしたいから。
また、すぐに寂しくなって泣いちゃうかもしれないけど……
でも、今は笑っていよう。
楽しそうに宝探しをしているマンドラゴラ達のかわいい姿を見ているだけで幸せだ。
一緒に探したらもっと楽しいだろうな。
「わたしも宝探しをするよ!」
皆で島の中のたくさんの贈り物を見つけた。
ほとんどがマンドラゴラ達のおもちゃで、すごく喜んでいた。
「ルゥ、リコリス王からの贈り物だ」
じいじが小さい箱を渡してくれる。
なんだろう?
もうたくさん贈り物は見つけたけど……
箱を開けると、三日月の形の髪飾りが入っている。
小さいアクアマリンがたくさん散りばめてある。
綺麗……
「世界一幸せな花嫁になるようにと、願いを込めたらしい……じいじがルゥを世界一幸せな花嫁にするよ」
そう言いながら、わたしの髪に飾りをつけてくれる。
「じいじ……わたしは、ずっと幸せだよ……」
じいじに抱きつくと、いつもの優しい匂いにまた幸せな気持ちになる。
ウェアウルフ王達が国に帰って、皆もそれぞれの家に帰って行った。
じいじとベリアルとリビングに入ると、テーブルに小さな箱が置いてある。
なんだろう?
「ルゥ、開けてごらん?」
「じいじ……?」
わたしが開けていい物なのかな?
箱を開けると見覚えがある木の実が入っている。
「これ……子孫繁栄の実?」
「グリフォン王とウェアウルフ王とドラゴン王からだ」
え?
でも、子孫繁栄の実は手に入らない時期なんじゃないかな?
どうやって……?
「ドラゴン王が腐らないように木の実に術をかけた。じいじ達のタイミングで食べよう」
わたし達のタイミングで……?
「直接手渡したら泣いてしまいそうだからと言ってな……しばらく会えないから笑顔で別れたいと言っていたぞ?」
……!
涙が溢れてくる。
ダメだ。
泣かないって決めたのに……
涙が止まらない。
「ルゥ……もう我慢しなくていい。泣いていいのだぞ」
もう我慢しなくていい?
わたし……
寂しいよ……
本当は皆と離れたくない。
ずっとずっと一緒にいたかった。
じいじの優しい言葉に……
声を出して泣いた。
じいじとはずっと一緒にいられるよね?
離れ離れになんてならないよね?
どうしてこんなに不安になるんだろう……




