十五歳の誕生日(6)
「できました。魔王、いかがですか?」
「キュキュイ!」
もうできたの?
すごい……
これがお父さん……?
肖像画にそっくりだ。
粘土感はあるけど、ベリアルが力を使えば人間みたいになるのかな?
マンドラゴラ達が作ったピーちゃんは真ん丸のお団子ふたつに、小さいくちばしがついている。
かわいいな。
ちゃんと緑色の粘土を使ってある。
でも、魂がないから動かないのかな?
「よし、やるぞ!」
砂浜に立つベリアルが輝き始める。
ついに、お父さんが人間の姿になるんだね。
粘土のお父さんが金色の光に包まれる。
眩しくて目が開けていられない。
一分くらい経って光がなくなると、やっと目が開けられる。
どうなったのかな?
……!
すごい。
本物の人間みたいになっている!
ピーちゃんの方はぬいぐるみみたいにフワフワになっているよ。
かわいいな。
吸って撫で回したい。
「よし、魔王の魂を入れ込むぞ?」
「え? ベリアル? そんなすぐにできる事なの?」
儀式的な事をするのかと思っていたのに。
「マンドラゴラの身体はどうするんだ?」
ベリアルの言う通りだね。
すごくお世話になった大切な身体だからね。
「そうだね……ボクの魂がなくなったら、マンドラゴラの身体はどうなるの?」
お父さんもマンドラゴラの身体の事が心配なのかな?
「よく分からないけど、腐るんじゃないか?」
腐っちゃうの?
そんなの寂しいよ……
「じゃあ、ばあばが永遠に腐らなくしてあげるわ。そうすれば、ベリアルが魔王の魂をまたマンドラゴラの身体に入れる事もできるんじゃない?」
「また、お父さんがマンドラゴラになれるっていう事?」
「……そうだな。できなくはない。まあ、オレ様くらいになればその程度は簡単だ!」
うわあぁ!
得意気なベリアルもかわいいっ!
「じゃあ、やるぞ? 魔王、粘土の身体にくっつけ」
粘土の身体とマンドラゴラの姿のお父さんが輝き始める。
こうやって魂を入れ替えるんだね。
わたしの魂もこうやってルゥの身体に入ったのかな?
……あれ?
前にもこんな事があったような……?
ルゥの身体に入った時かな?
……?
頭がボーっとする。
頭の中に映像が見える……?
何?
砂嵐みたいな向こうに天使がいる?
何か話しているけど……
音は聞こえない。
「ルゥ? 疲れたか?」
じいじが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……大丈夫だよ? 平気」
あれは、なんだったんだろう?
「終わったぞ」
ベリアルの声に皆が息を呑む。
すごい。
さっきまではただの粘土だったのに、どこから見ても人間だ。
ベリアルの力はすごいね。
さすが天使だ。
「……あれ? ボク……」
人間の姿のお父さんが話し始めた。
お父さんが動いている……
夢みたいに不思議な感覚だ。
もう亡くなっていると思っていたのに、まさか異世界でこんな風に会えるなんて……
おばあちゃんにも会わせてあげたかったな。
「月海……」
お父さんがフラフラ歩いて来る。
身体に慣れないのか歩きにくそうだ。
わたしの前まで歩いて来て、涙を流す。
そして、ゆっくり抱きしめてくれる。
温かいな……
生きているみたいだ。
こんな風にずっと抱きしめて欲しかったんだよ?
前の世界でずっとずっと寂しかったんだよ?
「お父さん……」
「月海。今までごめん。これからはお父さんが守るから……ずっと守るからね」
「うん……うん……」
泣きながら抱きしめ合っていると、海の方から泣き声が聞こえてくる。
魚族長……
大号泣している。
確か、陸に上がれなくてお父さんの最期に立ち会えなかったんだよね。
すごくお父さんを大切に想ってくれていたんだね。
「魚族長……ずっと月海を守ってくれてありがとう。ボクが波打ち際まで会いに来るって言ったのに、約束を守れずに死んでしまって……本当にごめんね」
……?
何か約束をしていたのかな?
「マンドラゴラの姿の魔王様も素敵でしたが、このお姿もとても素敵です」
魚族長……
嬉しそうだよ。
お父さんの事を話してくれた時に寂しそうにしていたから心配だったけど。
本当によかった。
「じゃあ、力を戻そうか。いつか返せると思って残しておいたんだ」
おじいちゃんが小さいクリスタルみたいな物を出した?
なんだろう?
魔力を感じる。
「これを飲み込んでごらん? すぐに魔力を取り戻せるよ?」
あんな硬そうな物を飲み込んで平気なのかな?
飲み込んだお父さんに魔力が戻るのを感じる。
すごい……
魔力が他の魔族とは比べ物にならないくらい強い。
だから、じいじが『唯一尊敬できる』って言っていたんだ。
「あの頃に戻ったみたいだ……すごい……」
お父さんも嬉しそうだ。
これからは人間の姿のお父さんにたくさん甘えられるんだ……
嬉しいよ。




