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王子と人魚姫の秘密~前編~

『突然の奇襲』につながる物語です。

人間の王子が主役です。

「はぁ」

 

 今日もプルメリア第二王子の執務室に、ため息が響き渡る。

 

 執務室の椅子に座り、手のひら程の大きさの絵姿を見ながらまたため息をつく。


「殿下、また人魚姫の絵姿を見ているんですか?」

 

 ニヤニヤしながらマクスが近寄って来る。


 この絵姿は従者であり友でもあるリュートが描いた物。

 人魚姫は肌も髪も日焼け防止の土を塗っていたから本当の色が分からない。

 

 だから、姫の瞳とあの時に身につけていた片耳のイヤリングにだけ美しい青が塗ってある。


 また会いたい……

 

「失礼します。殿下、お客様です」

 

 執務室にリュートが入って来る。

 後ろには、母方のおばあ様がいる……?


 おばあ様は時々、遥か離れた国から人捜しにやって来る。

 王妃が嫌な顔をするからすぐに帰ってしまうが、孫のわたしにもプルメリアに来るたびに会いに来てくれる。


「おばあ様。お久しぶりです」

 

 椅子から立ち上がり、おばあ様とソファーに座る。


「夜に、ごめんなさいね。ふふ。リュートから聞いたわよ? 恋をしているんですって?」


 嬉しそうにおばあ様が話しているが……


 リュートめ。

 おしゃべりだな。


 ちらっとリュートを見ると申し訳なさそうにしている。


「おばあ様。あの、恋というか……その……」


 真っ赤な顔になりながら、どう話したらいいのか分からずに言葉に詰まってしまう。


「ぜひお会いしたいわ」


 おばあ様がニコニコしながらお茶を飲む。


 おばあ様は、数少ない心を許せる存在だ。

 この王宮にはわたしの命を狙う者、第二王子の座から引きずり降ろそうとする者ばかりだ。


 人魚姫に実際に会う事は難しいだろうが、絵姿だけなら。

 上半身だけだから人魚だと言わなければ、分からないだろう。

 あの時、人魚姫に助けられた事はマクスとリュートとわたしだけの秘密になっている。

 わたしの恋心があまりに隠せないからだ。

 もし王妃の耳に入れば、ありもしない罪を被せて人魚狩りを始めるかもしれない。

 過去に愚かな噂を信じた人達が、かなりの数の人魚を虐殺した記録があったからな……

 王妃は残酷だから気をつけないと。


「おばあ様。あの……絵姿なら……あります」

 

 耳まで真っ赤になりながら絵姿を見せる。

 

「まぁまぁ。ふふ。……!?」


 嬉しそうに絵姿を見たおばあ様が真顔になった?


「おばあ様?」


「どうして……? この子が」


 おばあ様の瞳から涙が流れている。


 まさか人では無い事が分かってしまったのか?

 孫が人魚に恋をしている事が泣くほど辛いのか?


「こんな昔の絵姿をどこで手に入れたの?」


 泣きながら震えた声で尋ねてきた?

 

 それに『昔の絵姿』?

 これは最近リュートが描いた物だが……

 

「これは、わたしの命の恩人をリュートが描いた物です」


 おばあ様の様子がおかしいような……?


「いつ? どこで助けられたの?」


 おばあ様の顔が怖いくらい真剣になっている。

 この様子……

 尋常ではない。

 人魚姫の事……

 おばあ様になら話しても大丈夫だろうか……?


 ゆっくりと慎重に、魚族に襲われた時の事を話すと……

 

「死の島? 死の島の付近ね?」


 おばあ様がそう言いながら慌てて立ち上がる。

 

「この絵姿、もらって行くわよ」


 大事そうに絵姿を胸に抱えながら、慌てて執務室から出て行った?


 え?

 絵姿が……

 おばあ様?

 ただならぬ様子だ。


「リュート。父上に外出すると伝えてくれ。おばあ様と共に少しの間、出かけるとな」


 早口でリュートに伝えると、マクスと慌てておばあ様を追いかける。


 馬車の前でおばあ様に追いつく。

 高齢だがかなりの早足だ……

 

「一緒に行かせてください!」


 おばあ様にお願いすると、涙をこぼしながら頷いた?


 馬車は港に向かっている。

 父上のもとに行ったリュートにも、今頃侍女が伝えているだろう。

 船に乗る前に合流できるはずだ。

 それにしても、おばあ様は絵姿を見ながらずっと泣いている。

 何か声をかけた方がいいだろうか。


「おばあ様。大丈夫ですか?」


 一体どうしたんだ?


「………船で話すわ」


 震える声でやっと話すと、またすぐに絵姿を見ながら涙を流している。



 港に着くと、ひときわ大きな船が目に入ってくる。

 おばあ様はプルメリアからかなり離れた国の王太后だ。

 本当は王妃だが、色々あって王太后という事になっている。

 小国だが武力に優れた国で、この船にも大砲がいくつも見える。

 こんな物を撃ち込まれたら……

 考えただけで恐ろしい。


「殿下!」

 

 リュートが馬に乗り追いついた。


 おばあ様が早足で船に乗り込むと、わたしとマクス、リュートも後から続く。


 

 船の応接室でソファーに座ると、おばあ様は少し落ち着いたようだ。

 

 執事がお茶を持って応接室に入って来る。

 執事も、おばあ様の様子が明らかにおかしいからか心配そうな顔をしている。


「今から、死の島に行くわよ」


 おばあ様が低く震えた声で話したが……

 死の島に?


 執事が小さく息を飲んだ?

 

「ついに、ついに……見つかったのですね。今すぐ船長に伝えて参ります」 

 

 執事が、涙をこらえる瞳で慌てて応接室から出て行った?

 これは一体……


「この子は……この絵姿の子は、わたくしがずっと捜していたミルフィニアなの。間違いないわ」


 おばあ様が低く震えた声で話し始めた?

 絵姿を見ながら涙を流しているが……


 おばあ様は、数十年前に二人の王女と一人の王子を産んだ。

 二人の王女の内、一人がわたしの母。

 もう一人は、ある大国に側室として嫁いだ。

 どこの国にも王妃と側室の対立はあるもので、出産直前に王妃の策略により叔母様は連れ去られた。

 

 しばらくして叔母様の遺体は見つかったがお腹には子がいなかったらしい。

 そして、いつも叔母様が身につけていたイヤリングも見つからなかった。

 

 お腹にいた子は誰も見た事が無いし、死んでいるとしか思えない。

 性別も容姿も分からず、必死に捜すおばあ様を笑う者もいた。


 イヤリング?

 人魚姫が身につけていたあれか?


 勘違いという事はないか?

 というより、あの人魚姫が人でわたしのいとこ?

 まさか、あり得ない。 

 

 執事が応接室に戻って来る。


 おばあ様が震える手で絵姿を見せると明らかに執事が動揺している?

 

「王女殿下!? なぜ殿下の絵姿が?」


 執事が人魚姫を殿下と呼んでいる?

 どういう事だ?


「レオンハルトが死の島付近でこの絵姿の……ミルフィニアに助けられたらしいの。この容姿、あの子に生き写しだわ。それにこのイヤリング。これはあの子の為に作った物……あの子がつけていた物よ」


 おばあ様が震える声で懸命に話している。

 だが、それだけでは捜している子だとは言えない。


 あの時、人魚姫は魚族と魚人族と共にいた。

 その状況で人である事はあり得ない。

 魚人族の人魚である事は間違いない。

 おそらくイヤリングは拾った物だろう。


 赤ん坊を食べて手に入れたとは考えたくない。

 捜している子では無いと分かった時、おばあ様にどう接したらいい?


「バカみたいでしょう? 自分でも分かっているのよ。この絵姿の子がミルフィニアのはずが無いと。でもね、もしどこかで生きていて辛い思いをしているのなら助けてあげたいの。それができるのはわたくしだけだから」

 

 執事がおばあ様にハンカチを渡すと、涙を拭いながら話を続ける。


「ミルフィニアという名はね、わたくしがつけたの。大切な恩人の名なのよ……ミルフィニアの父親は、もう死んでいると言って捜しもしなかった。だから女の子だったら、男の子だったら、と名を考えたの。おかしいでしょう? 今回があの子を捜す最後の旅なの。年齢的にきつくてね」


 おばあ様。

 お辛かったでしょう。

 周囲にバカにするような者もいただろうし。

 今回が最後の旅か。

 捜していた子では無いと分かった時には、わたしが支えよう。

 死の島までは、大砲がいくつも載せてあるこの船では十時間かかるらしい。


 おばあ様の体調も考えて、それぞれ部屋で休む事になった。


 あと二十分程で死の島が見えてくるという時に甲板から誰かの声が聞こえてきた。


「魔族だ! 死の島に魔族が大量にいるぞ!」


 魔族……?

 しかも大量の?

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