少しずつ変わるもの~後編~
「聖女様……前ヴォジャノーイ王がいる時に話そうかと思っていたのですが……」
ウェアウルフ王?
大切な話なのかな?
「ハーピーとオークは子が産まれれば、狩りのしかたを教える為に島から出る事もあるかと思います。前王も出かけてしまえば、島には聖女様がお一人になられます。わたしは聖女様が心配で心配で……もしよろしければ、わたしを幸せの島の住人にしていただけないでしょうか?」
え?
でも王様なのに……
「ウェアウルフ王は王様だから、ずっと島にいるのは無理だよ……?」
「いえ、実は……ここにいる従者の一人に王位を譲ろうと思っているのです」
「ええ? そうなの? ……わたしを守る為に、王位を譲るの?」
そんなの申し訳ないよ。
「聖女様……わたしは昔から物作りが好きでした。マンドラゴラ達がわたしの作った物で遊び喜ぶ姿を見て思い出したのです。まだ幼かった頃、わたしが木のおもちゃを作って両親が喜んでくれた姿を」
両親?
先代のウェアウルフ王かな?
「両親は戦で亡くなり、わたしは王位を継ぎました。ですが……わたしには種族の王よりも物作りの方が性に合っているようです」
戦で亡くなっていたの……?
「聖女様はこの二人の従者が親子である事をご存知でしたか?」
「うん。知っていたよ? 前に息子さんの方に教えてもらったから」
「今回、父の方に王位を譲りいずれ息子の方が王になるでしょう。わたしもオークと同じです。戦うよりも穏やかに暮らしたいのです。王として国を治めるのは、わたしには不向きなのです」
確かにウェアウルフ王は優しいけど……
「不向きなんかじゃないよ? だってウェアウルフ族の子供達は皆ウェアウルフ王が大好きなんでしょ? 子供が笑顔の国は幸せな国なんだよ? ウェアウルフ王が王様だから皆、幸せに暮らしているんだよ?」
「聖女様……ありがとうございます。わたしも頑張った甲斐がありました。これからは幸せの島でマンドラゴラ達や聖女様、そしてハーピーの子の為に物作りをしながら穏やかに暮らしていきたいのです」
本当にいいのかな?
「ルゥ……そうさせてやろう」
じいじ……
帰って来たんだ。
間に合ってよかった。
じいじは島に家族以外が入るのを嫌がるけど、ウェアウルフ王はいいのかな?
「ありがとうございます。前王が留守の間は、わたしが聖女様をお守りします」
「島には結界が張ってはあるが、悪知恵を働かせて入り込む愚か者がいるかもしれない。ちょうど、ウェアウルフ族の建てた家もある。そこに住めばいい」
この家には一緒に住まないのかな?
部屋は余っているけど。
「ルゥ、わたしとオークも隣のハーピー族が建てた家に移ろうと思うんだ。もちろん昼間は今まで通りこの家にいるが、子はいずれハーピー族の島に戻る事になるからな。夜にはハーピー族の家に戻って慣れさせておきたいんだ」
ママ……
そうなんだ。
寂しいけど、すぐ隣の建物だし……
「うん。赤ちゃんの為にも、それがいいかもしれないね」
少しずつ、いろんな事が変わっていくんだね。
変わらない事なんてないのは分かっている。
でも……
毎日会っていたグリフォン王達と会えないのも、ばあばとおじいちゃんに次いつ会えるのか分からないのも寂しいな。
もちろん赤ちゃんやウェアウルフ王と一緒にいられるのは、すごく嬉しいけど……
これから、新しい家族の形ができていくんだね。
少し寂しいけど……
楽しい事もたくさん起こりそうだ。




