集落の謎とベリアル~後編~
「うーん……おすすめはできないな。悲惨な状況になっている事もあるからね。ルゥが傷つくのは嫌なんだ。行ってみないとどうなっているか、いつにたどり着くか分からないんだ。今の、この世界のこの時間に帰って来られるかも分からないし」
おじいちゃんが言葉を選びながら教えてくれているのが分かる。
悲惨な状況……?
皆が亡くなった後……とか?
……確かに辛過ぎる。
それに、この世界に数年後に帰って来る可能性もあるのか。
「おじいちゃん……やっぱり集落には行かないで。ばあばと数年も会えないなんてダメだから」
やっと気持ちを確かめ合ったんだから、離れ離れになるなんてダメだよ。
「大丈夫だよ? 二人で行くから」
え?
ばあばと二人で行くっていう事?
「そうね。ルゥの世界で言う『新婚旅行』で異世界に行くのもいいわね」
ばあばも行く気になっているの?
「もし勇者がいて、帰りたがっていたら一緒に帰って来るよ」
ピーちゃんに会って来てくれるの?
時間のズレがなければいいけど……
「じゃあ、明日のルゥの宴が終わったら出発しよう」
「そうね。楽しみだわ」
明日出発?
そんなにすぐ?
寂しくなるけど、わたしがお願いしたんだし……
それに、二人とも楽しそうだ。
「気をつけて行って来てね……」
寂しそうにしているわたしを、ばあばが抱きしめてくれる。
「ルゥ……永遠に近い命を得たのよ? これからは楽しくて幸せな日々が続くわ。もう悲しい事なんて起こらない。だから……ばあば達が帰って来るまで笑顔でいてね?」
ばあばの言う通りだ。
わたしも皆と同じ永遠に近い命を与えられたんだ。
「永遠に近い命ってどれくらいなのかな?」
永遠ではないっていう事かな?
魔族も病気や戦で亡くなったりするし。
「わたしは人間に命を与えた事がないから分からないのよ。ルゥが初めてなの。だから、永遠に近いとしか言えないわ」
そうか。
わたしが初めてなんだね。
「じいじとずっと一緒にいられる事が幸せだから……ばあば、本当にありがとう」
抱きしめてくれているばあばに腕をまわして抱きしめる。
こうしていると……
なんとなくだけど、わたしとばあばは昔ひとつだったんだって思うんだ。
懐かしいような、温かいような……
少し寂しいような……
不思議な感覚。
「うん。これが一番似合うね」
パパの声の方を見ると、かわいいピンクのドレスを着たベリアルが見える。
「うわあぁ! すごくかわいいよ!」
今のベリアルは、人間の顔くらいの大きさでカスタードクリームみたいな色のヒヨコちゃんの姿。
フワフワのピンクのドレスは誰が作ったのかな?
こんなに小さいドレスだから既製品っていう事はないよね?
「聖女様に喜んでいただけて、わたしも嬉しいです」
え?
ウェアウルフ王?
じゃあ、今ベリアルが着ているドレスは……
「ウェアウルフ王が作ってくれたの?」
すごい!
手先が器用なのは知っていたけど、服まで作れるなんて。
「はい。聖女様好みのかわいいドレスを作ってみました」
すごいよ。
サイズもぴったりだし。
「ふざけるな! オレは男だぞ!? こんな……」
怒り始めたベリアルの口にパパがブルーベリーを入れたね。
ベリアルのくちばしがモグモグ動いている。
かわいいっ!
なんていう破壊力……
さっきまで怒っていたのに、ご機嫌になっている。
堕天使だったんだよね……?
すっかりパパに飼い慣らされている。
パパがすごいのか、ベリアルが簡単なのか……
ベリアルは天界に帰れるはずだったのに、どうして帰らなかったのかな?
天界が嫌いなのかな?
わたしは、ずっと一緒にいられたら嬉しいけど……
そういえば、見ていられないからって言って話し始めたんだよね?
「ベリアルはどうして天界に帰らなかったの? 天界に大切な存在はいないの?」
「……もう何千年も一人だったからな。それに、ここにいた方が面白そうだったしな」
「面白そう? 何が?」
「……まあ、筋肉バカが女に振り回されるのが、面白いって事だ」
「筋肉バカ? 誰?」
筋肉……?
パパの事?
「んん? あぁ、オレ以外にも追放されて来た奴がいてな。そいつは天界では並ぶ奴がいないくらい強かったのに、今は惚れた女の事で頭がいっぱいなんだ。それが面白くてな」
パパはママの事で頭がいっぱいだよね?
やっぱりパパの事かな?
パパは天使だったの?
「それってパパの事?」
「パパ? オークじゃないぞ? ……誰の事かは秘密だ。オレも最近そいつだって気づいたんだ」
秘密?
その天使も天界に帰らないのかな?
幸せの島に関係している筋肉ムキムキの誰か?
魔族は、だいたいムキムキだよね?
うーん……
考えても分からないし、誰が追放されて来た天使だって関係ないよ。
昔は天使だったとしても、今は大切な存在っていう事に変わりはないんだから。




