かわい過ぎるベリアル(1)
ママの卵から赤ちゃんが産まれる日がやってきた。
あれからもう十五日か……
ママはすっかり体調も回復して、毎日穏やかに卵を温めている。
パパは、十年以上のんびり暮らしていたから体力作りに励んでいる。
ドワーフのおじいちゃんが作ってくれた温泉には疲労回復の効能があるのか、わたしの魔素で弱った身体もだいぶ治ってきた。
まだ走ったりはできないけど、ゆっくりなら歩けるようになったし。
と言ってもじいじが付きっきりでお世話をしてくれるから歩く事はあまりない。
ずっと抱きかかえて運んでくれるから……
新婚さんだからいいよね?
ばあばとおじいちゃんはドラゴンの島で仲良く暮らしているらしい。
ドラゴン達は、ばあばがブラックドラゴンの子ではない事を分かっていたんだって。
赤ちゃんだったホワイトドラゴンから天使の匂いがしたから、追放された天使だってすぐに分かったらしい。
それに、おじいちゃんがブラックドラゴンじゃない事にも気づいていたんだって。
それでも、ドラゴン達はばあばを育ててドラゴン王にまでしてくれた。
全てを知った後に、ばあばがどうしてそうしたかをドラゴン達に尋ねたらこう言われたんだって。
「目の前に腹を空かせた赤ん坊がいたら助けるのは当然の事だ」
ドラゴン達は強いけど本当に優しいんだ。
いつか、ばあばが天使と揉め事になった時に地位が高い方が有利になるって考えて王にしてくれたんだって。
わたしは今、幸せの島のリビングでウェアウルフ王とグリフォン王のモフモフを堪能している。
だいぶ動けるようになってきたから王様達も安心したみたい。
ベリアルは相変わらず、かわい過ぎるヒヨコちゃんとして幸せの島にいる。
パパはエメラルドのオークの時のムキムキの身体になったけど、相変わらずかわいいものが好きなんだ。
ウェアウルフ王が作ってくれたヒヨコのスプーンも使っているし、ベリアルの事もすごくかわいがっている。
パパはオーク族長だけど元々優しくて、オーク族の赤ちゃんのお世話とかもしていたらしい。
だから、赤ちゃんの時のわたしのお世話が上手だったんだね。
わたしの事を食べたいと思っていたらしいけど……
「やめろ! オークめ! オレは男だぞ!?」
今も、パパがベリアルに試着をさせている。
「ドレスかな? それともレースのリボンかな?」
パパがニコニコしながら、ベリアルに似合う物を選んでいるね。
ベリアル……
怒っているけど、かわい過ぎるよ。
「もう明日なんだから、今日こそ決めないと」
パパは楽しそうだね。
明日はわたしの十五歳の誕生日。
魔王城で、盛大にお祝いしてくれるんだって。
人間のおばあ様とお兄様、レオンハルトも来てくれるらしい。
人間の皆にも、天使の事でお世話になったからお礼を言わないと。
「オレがドレスを着たらおかしいだろう! バカなのか!? そうかお前、筋肉バカだな!? どこにでもいるんだな。天界にも昔、筋肉バカがいた!」
筋肉バカ?
筋肉ムキムキの天使もいるんだね。
「お前……オークにバカって言っていいのは、わたしだけだぞ!?」
リビングで卵を抱いて温めているママが怒っている。
ママはバカって言っていいのか……
「ママ? 赤ちゃん産まれてきそう?」
今日の夕方くらいに卵から出てくるらしいんだけど。
どんな姿なんだろう?
オーク?
ハーピー?
それとも、オークとハーピーのいいとこ取りとか?
「まだ朝だからな。もう少しだ。ルゥは楽しそうだな」
ママが笑っている。
よかった。
すっかり元気になったね。




