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突然の奇襲~ルゥが主役の物語、後編~

「パパ……」

 

 震える足でなんとか立ち上がり、フラフラとパパの所に歩く。


「パパ?」


 嘘……

 嘘だよ……


 パパの身体は緑色。

 目がつり上がっていて、お腹がぽっこり出ていて髪は生えていない。

 耳は大きくて、下の牙が口から出ている。

 誰が見ても怖い顔。

 でも嬉しいとピンクになるかわいいほっぺた。

 優しい黒い瞳が……

 開いたままで輝きを無くしている。


 ……死んじゃったの?

 パパもおばあちゃんみたいに、いなくなっちゃうの?

 嫌だよ……

 

 抱きしめた身体が、まだ温かい。


 心臓マッサージ。

 そうだよ。

 まだ間に合うはず。

 パパの心臓は人間と同じ左胸にある。

 抱っこしてもらうとドキドキする音が心地良かった。


 パパの胸に手を乗せる。

 うぅ……

 手のひらが痛い。


 どれくらいの力でやればいいんだっけ?

 もし間違えたら……


 どうしよう。

 自分の無力さに涙が流れる。


 しっかりして!!

 

 手のひらから血がたくさん出てくる。

 痛いよ……

 手の傷よりも……

 心の方が引きちぎれそうに痛いよ。

 

「パパ……」

 

 手がジンジン痛む。

 

 え?

 ……?

 何……?

 わたしの手のひらから白い光が出てきた……?

 

 光が天井を突き抜ける。

 手のひらから流れる血がパパの斬られたお腹に吸い込まれている?


 パパの傷がふさがった?

 どうして?


 え?

 パパ?

 何これ……

 パパがすごい勢いで縮んでいる?


 どうしよう……

 どんどん小さくなっていく。


「パパ! どうしよう?」

 

「あぶぅ」

 

 小さくなるのが止まった?

 パパが赤ちゃんになっちゃった。

 どうして?

 でも、小さくてかわいい。

 あ……

 小さくても顔は怖いんだね。


 涙が溢れ出してくる。

 パパは生きていたんだ……

 良かった。

 本当に良かった!


「うわぁぁん! パパ!」


 小さくなったパパを優しく抱っこする。


「えへへぇ」

 

 パパが嬉しそうにほっぺたをピンクにして笑った?

 小さくなってもパパはパパだね。

 ……生きていてくれてありがとう。

 

 じいじとママはどこにいるんだろう?

 他にも、さっきみたいな狼人間がいるかもしれない。

 とりあえず、外の様子を見に行こう。


 パパを抱っこしたまま静かに外に向かう。

 外に出られる扉をそっと開ける。

 

 ドカン!

 ドカン!


 すごい音と振動。

 外に出ると血の匂いが充満している。

 少し離れた海上に、死の島を大砲で攻撃する船が見える。


 何?

 船?

 人間の船……だよね?

 大砲で攻撃しているの?

 どうして人間が?


 それだけじゃない。

 見た事の無い生き物がたくさんいる。

 

 砂浜には、じいじとヴォジャノーイ族のおじちゃん達がいる。

 空にはママと、初めて見るママ以外のハーピー族がたくさんいる。


 皆、戦っている。

 どうして?

 まさか、わたしの為に?

 

 パパの畑が……

 花が……

 皆で遊んだ砂浜が……

 全部全部めちゃくちゃになっている。


 じいじもママも血まみれだ。


 砂浜には、横たわり動かないたくさんの魔族。

 キッチンで瞳の色を無くしていたパパと、横たわる魔族が重なって見える。


 ……もうやめて。

 ……もうやめてよ。

 

「もうやめて!」


 大声で叫ぶと……

 じいじとママがわたしに気づいたみたいだ。


 血まみれのわたしの姿を見て顔がこわばっているのが分かる。

 

 こんな事になっていたのにどうして気づかなかったの?

 家の中は静かで、雨の音しか聞こえなかったのに。

 どうして?

 晴れている?


 何がどうなっているの?


 皆の動きが、わたしを見つめたまま止まっている?

 動いているのは……

 じいじとママだけ?

 ……ヴォジャノーイのおじちゃん達は震えている?


 じいじとママがわたしの所に慌てて駆け寄ってきた。

 

「「ルゥ!」」

 

 わたしの名前を呼ぶ声が重なったけど……


「怪我をしたのか?」


 ママが血まみれの顔を近づけてくる。


「ママ、うぅっ」

 

 やっと二人に会えて涙が止まらないわたしを見て、じいじが抱きしめてくれる。


「怪我をしたのか? じいじに見せてごらん?」


 じいじの方が酷い怪我だよ?

 

「じいじ。パパが、パパが……」

 

 じいじとママが、小さくなったパパに気づく。

 

「は? これ、オークか?」


 ママがパパの顔を覗き込むと、驚いたパパが泣き出した。

 

「うえぇーん!」


 泣かないでパパ!

 ママが傷ついた顔をしているよ?


 どうしよう。

 皆が止まっているのは五分だけだよね?

 

「じいじ、どうすればいい? わたしにできる事はある?」


 泣いているパパを優しく抱きしめながら尋ねる。


 じいじとママが目を見合わせている。

 何か考えがあるみたいだ。


「うえぇーん!」

 

 パパ……

 お願い。

 泣きやんで。


 パパを抱っこしているわたしの手のひらから、地面に血が流れ落ちる。


 パアァァ……

 

 血が落ちた地面から波紋の様に光が広がっていく。

  

 キラキラと、白い光が死の島全体を包み込む。

 

 柔らかな光……

 気持ちいい春の日みたいに温かい。


 倒れていた魔族達が立ち上がった。

 わたしを見つめたまま動けなかった魔族達も動き始めた。

 魔族達が、傷が治ったと不思議そうに話している。

 

「傷が治っているぞ? ハーピーはどうだ?」


 じいじも不思議そうにママに話しかけている?


 ママもさっきまで切り傷があった所を触って確かめている。


 良かった。

 怪我が治ったんだ。

 

 もしかして、よく異世界アニメにあるやつかな?

 異世界に来たら聖女で、皆の怪我とかを治しちゃうやつ。

 

 じゃあ、わたしが聖女っていう事?

 確かに光魔法を使えるし。

 わたしの血が地面に落ちて、皆の傷を治したみたいに見えたし。


 でも待って?

 もしかして……

 パパ!?

 パパがやったのかも。

 自分の傷を治して力を使い果たして小さくなったとか?

 原理は分からないけど、パパが泣いたから皆の傷が治ったとか?


「じいじ、ママ。わたし分かっちゃった!」

 

 突然大声を出したから、じいじとママが驚いた顔でわたしを見つめている。


「あのね、あのね。パパ、聖女かもしれないよ?」 


 ……?

 島中の魔族が一斉に静まり返った?


 あれ?

 急に静かになったけど……

 また魅了の力を使っちゃった?  

 でも皆、動いているよね?


 そうか、目の前に皆の怪我を治してくれた聖女がいるから驚いたんだね。


 パパはすごいな。

 聖女だから優しいんだね。


 パパを見ながらニコニコ笑っているわたしに、なぜか島中の魔族が残念な視線を浴びせた。

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