やっと訪れた幸せの日
「ルゥは……わたしを『おじいちゃん』と呼んでくれるの?」
ブラックドラゴンのおじちゃんが、おじいちゃんだったなんて……
不思議だね。
何代も前のおじいちゃんか……
「うん。おじいちゃんの恋人さんがふたつに分かれた時……お腹にいた赤ちゃんが、異世界の恋人さんのお腹にいたみたいなの」
「ええ!? まさか!?」
あれ?
おじいちゃんが驚いている?
「え? 違うの? てっきりそうかと思っていたの。異世界には子孫繁栄の実がないから」
異種族の子供は子孫繁栄の実がないと産まれないんだよね。
「じゃあ、イナンナは妊娠していたのか……」
イナンナ?
イナンナさんっていう名前だったんだね。
この世界では名前は同じ種族の中だけの秘密だから皆、種族名で呼ぶんだよね。
名前を聞くのは新鮮だよ。
天族は従魔にならないから大丈夫なんだね。
「わたし達はそう考えていたの。たぶん、集落の皆はイナンナさんを神様だと思っていたの。だから、イナンナさんの家を『神』って呼んでいたの」
「そうだったのか……じゃあルゥとセージはわたしの子孫なのか……」
おじいちゃんはお父さんの名前を知っていたんだね。
「星治……? ボクの名前……やっぱり、ずっと守っていてくれたんですね」
お父さんの言う通りだったね。
おじいちゃんは、わたし達をずっと守ってくれていたんだ。
「イナンナの子孫だったら、わたしにとっても大切な存在だから……でもまさか、わたしとイナンナの子孫だったなんて……イナンナはどれだけ苦労したのか……」
「おじいちゃん……それは大丈夫だったと思うよ。あの集落はね、大昔から皆で助け合ってきたの。きっとイナンナさんにも優しくしてくれたはずだよ」
「ルゥ……わたしがあの時見た、飢饉で泣いていた少女がイナンナ自身だったのかな? それとも子孫だったのかな?」
飢饉の時……?
木を植えてくれた時の事かな?
「その少女はイナンナさんの子孫みたいだよ。集落の昔話になっているの。神様が木を植えてくれたから集落は守られた……おじいちゃんのおかげなの。本当にありがとう」
「え……? わたしはイナンナを守れていたのか……」
おじいちゃんが涙ぐんだ。
おじいちゃん……
今まで大変だったんだね。
「おじいちゃんが木を植えてくれてから……産まれてくる集落の子供達は皆、空にちなんだ名前をつけたの。 お父さんは、星を治めるで『星治』わたしは月の海で『月海』ピーちゃんは太陽をひっくり返して『陽太』。集落の皆は空に神様がいるって考えていたから、神様への感謝を忘れない為にそうしていたんだって」
皆、おじいちゃんにすごく助けられたんだよ。
「そうか……よかった……役に立てていたのか……」
それから、おじいちゃんは今まであった事を全部話してくれた。
……あれ?
イナンナさんは人間にされていたの?
天使の身体のまま追放されたと思っていたのに。
じゃあ……
イナンナさんと人間との間には、子孫繁栄の実がなくても子供が産まれたのかな?
「天族のバカヤローどもめ……」
ママが泣きながら怒っている。
ママだけじゃない、島にいる全ての魔族達が怒り悲しんでいる。
「これから、おじいちゃんはどうなるの?」
幸せの島で一緒に暮らせるのかな?
それともドラゴンの島でばあばと一緒に暮らすのかな?
「ブラックドラゴン……?」
ばあばが話し出す。
「わたしは、遥か昔のあなたの事を何も覚えていないわ……きっと、これからも思い出す事はないわ」
そうだね。
記憶を全て抜かれちゃったんだもんね……
「イナンナ……いや、ホワイトドラゴン……わたしは……」
おじいちゃんが、ばあばの目を見て真剣な顔になる。
おじいちゃんは、いつもお調子者だから見慣れない姿に緊張するよ。
「貴女が貴女だから、好きなんだ。イナンナだからじゃない。貴女がわたしを覚えていなくてもいい……これから絶対に振り向かせてみせるから」
……!
おじいちゃん……
かっこいいよ!
見ているだけなのに、すごくドキドキする……
ばあばは、どう思っているのかな?
「本当にバカね……わたしはずっと……」
そこまで言うと、真っ赤な顔になったばあばが黙ってしまう。
「答えだと思っていいのかな?」
おじいちゃんが、ばあばの顔を覗き込む。
ばあばが黙って頷く。
そして……
二人はゆっくりとくちづ……
あれ?
前が見えなくなった?
「ルゥには、まだ早い」
え?
じいじの声?
もしかして目隠しをされている!?
いや……
わたしもう群馬と合わせたら三十年生きているんだけど……
こうして、ばあばとおじいちゃんはドラゴンの島へ帰って行った。




