神と恋人(8)
今回は、神様が主役です。
「前ヴォジャノーイ王がお前の為に動いたのだ。まさか、あやつがな……」
あやつ……?
「前ヴォジャノーイ王とは知り合いなのですか?」
「あやつは元は天族だった。行方不明だったのだが……ヴォジャノーイ族の腹の子に憑依させられ、追放されていた事が分かった。まあ、本人に記憶があるのかは分からないが」
そんな……
大天使に勝手に追放されていたのか?
でも、前ヴォジャノーイ王は天族の誰なんだ?
「あやつに、この事は黙っているのだぞ? 記憶があるのかも分からんからな。だが、もし記憶があり天界に戻りたいのならいつでも戻れるだろう」
え?
黙っている?
どうして……?
わたしはもう生きてはいられないはずなのに。
「わたしは……処刑されるのでは……?」
大天使を何人も殺したんだ。
絶対に処刑か自害しかあり得ない。
「魔族と人間からの陳情書にはこう書かれてあった。『本当の罪人は誰なのか。罰せられるべき者を間違えてはいけない。真実を、真心をもって明らかにして欲しい』と」
……?
まるでわたしが大天使達を殺すのを分かっていたかのような?
「ベリアルだな……あやつの記憶を消さなかったのか?」
ベリアル……?
ベリアルが、わたしが大天使達を殺すつもりだと話したのか?
なぜ、それを知っているんだ?
「ベリアルは……愚かな天族が、ありもしない罪で追放してしまいました。それに、その後三千年も時を遡らせてしまって……今度こそ幸せになって欲しくて、記憶をそのままに力だけを封印してヒヨコの姿にしたのです」
「そうか……まあいいだろう。わたしは、また神になるようだ。穏やかに暮らしていたのにな……」
また神になるのか……
あれほど神の座を嫌がっていたのに。
「わたしが神にならなければ、お前を追放できないだろう?」
追放?
「お前は神ではなく、ドラゴンとして生きていくのだ」
え……?
処刑されないのか?
「大天使達の悪行は全て明らかになった。ベリアルも罪を犯していない事が分かった。だが、これからもヒヨコとして暮らしていくらしい。他の無実の罪で追放された者達は帰って来る事になった。強過ぎる力を使わせない為に魔族に憑依させられた者達は、保管してある天族の時の身体を返す事になるだろう」
身体を返す……
天界では処刑は滅多にない。
ほとんどは、天族の姿のまま魔族の世界に追放される。
力が強くいずれ天界に攻めてくるかもしれない者は、これから生まれてくる魔族に憑依させられるようだ。
魂の抜けた身体は、天界に永遠に保管される事になる。
イナンナは身体を残してもらえなかった。
大天使の奴らめ……
どこまでも卑怯な奴らだった。
「さあ、行くのだ。そして、今度こそ幸せになれ……ご苦労だったな……」
……ご苦労だったな?
こうして……
目が覚めると幸せの島の砂浜に、いつもの人間の姿で横たわっていた。
たくさんの魔族達がわたしを見守っている……?
何だ?
頭が柔らかい?
膝枕……?
「目が覚めたのね……ブラックドラゴン……」
イナンナ……
人間の姿のイナンナは、あの頃のまま美しい。
「イナ……ドラゴン王……」
「バカね……一人で背負い込んで、本当にバカよ」
「あぁ……わたしはバカだよ。大切な存在を何度も喪った……大バカだ」
イナンナ……
泣いているのか?
「おじいちゃん……なの?」
この声は……
ルゥ?
「ルゥ……」
涙が溢れて止まらない。
今度は守れたんだ。
イナンナもルゥも。
もう誰にも奪わせない。
絶対に……




