神と恋人(7)
今回は、神様が主役です。
「もし、家族が亡くなっていたら、あの場所に植えた木の実を食べろ。そして、叫べ。わたしが迎えに行こう。時間はかかるだろうが、必ず行く。ルゥは近いうちに永遠の時を生きるようになる。ルゥはいつまでも勇者を待つだろう」
勇者よ……
家族の元に戻れたとしても、勇者は永遠の時を生きる。
小鳥の時は魔族だが、育つと聖獣シームルグになるという特殊な身体だからな。
生きる時の長さが違うという事は、大切な者達の死を見続けるという事だ。
辛いが、それが現実……
こうして勇者は生まれ育った世界に戻って行った。
もし今からやろうとしている事で、わたしが死んだら……
もう勇者は、この世界には帰って来られないのか。
さぁ……
始めるか。
天界の大掃除を……
まずはイナンナやルゥを苦しめた魔素を操る大天使を殺しに行こう。
もう、言い訳を聞く必要もない。
一撃では仕留めず、じわじわと苦しめながら殺してやる。
そして、最後は自ら命を絶たせるんだ。
自害すれば死後の国の『冥界』には行く事ができなくなり身体も魂も消滅する。
永遠に消し去ってやる!
神の執務室に呼び出すか……
その前にルゥが幸せの島で大人しく過ごしているか確認しないとな。
そっと、年をとる実を置いて来よう。
もう二度と会えないかもしれない……
ドラゴンの姿で、幸せの島に向かうとルゥはいなかった。
天族の姿に戻り、慌ててルゥの気配をたどる。
……?
ここは……?
ルゥは今どこにいるんだ?
まさか……
わたしとイナンナの島……?
しまった!
結界の外に出たのか!
一か月、幸せの島から出るなと伝えればよかった。
すぐに浮遊島へ向かった。
遠くからルゥが苦しそうに倒れる姿が見えた。
この感じは……
まさか、魔素!?
大天使め!
今はルゥを助けないと……
イナンナは……?
よし、イナンナも一緒だ。
年をとる実を食べさせた後に、イナンナに永遠の命を与えてもらおう。
大天使の奴らめ……
ルゥの体内に魔素を入れたのか。
わたしの力では体内の魔素を取り除く事はできない。
ルゥも空気中の魔素しか浄化できないはずだ。
永遠の命を与えても、生きていられないかもしれない量の魔素を注ぐとは。
だが、今ルゥが生き残れる方法はイナンナの力しかない。
たかが権力の為に、わたしの大切なイナンナの子孫を何度も攻撃するとは……
浮遊島に着くと、イナンナは大天使の力で意識がもうろうとしていた。
大天使の奴らめ……
こんな事をするなんて。
楽に死ねると思うなよ……
イナンナを抱きしめて、神力で意識を取り戻させる。
「前ヴォジャノーイ王よ……この実をルゥに食べさせるのだ。その後にイナ……ドラゴン王が永遠の命を与えよ。……また、こんな事になってしまった。今度こそ、全てを終わらせよう」
あとは任せたよ?
イナンナ……
これが最後かもしれない。
この二人の思い出の島が、わたし達のお別れの場所になるんだね。
イナンナ……
この島の美しい白いバラに込めた気持ちは、わたしが死んだ後も決して消えないよ。
愛してる。
今までもこれからもずっと……
こうしてわたしは天界に戻り、イナンナとルゥを苦しめた大天使達を皆殺しにした。
真っ白い天族の翼は血にまみれた……
何も悪くないイナンナを殺そうとしていたくせに、命乞いをする愚か者もいた……
本当に生きる価値のない奴らだ。
この最低なクズどもを殺すのに罪の意識なんて微塵もなかった。
これでいい。
これで、もうイナンナもルゥも狙われずに済むんだ。
わたしは……
追放では済まないだろう。
処刑か。
それとも、自害させられ消滅するのか。
イナンナが閉じ込められていた地下牢で、ただ静かに刑が決まるのを待った。
どれだけの時間が経ったんだろう。
わたしは神の部屋に呼ばれた。
そこには先代の神がいた。
わたしにイナンナやルゥの事を教えた神だ。
「……気分はどうだ?」
気分……?
気分か……
「晴れやかな気持ちです。ずっとやりたかった事ができました」
数千年かかった……
満足だ。
「……やり残した事はないか?」
やり残した事……?
そんな物はただひとつだ。
「イナンナ……ルゥ……」
先代の神が優しく微笑む。
「よく耐えた。もう何も耐える事はない。魔族と人間から陳情書が届いた。天族に聖女が殺されかけたとな」
魔族と人間が?
どうして……




