神と恋人(3)
今回は、神様が主役です。
遥か未来にイナンナがわたしに会いに来る……?
今、目の前にいるイナンナを助ける事はできないのか?
「神よ……今すぐイナンナを助ける事はできないのですか?」
「そうすれば、イナンナにはもう生き残る道はないだろう」
そんな……
わたしのせいだ……
いや、違う。
まだ他に道はある。
逃げ切れないのなら……
共に死のう。
イナンナ……
今から君を殺しに行くよ。
地下牢に繋がる薄暗い階段を降りる。
わたしの覚悟はもう決まっていた。
意識はなくてもかわいそうだ。
一瞬で終わらせよう。
だが牢の鉄格子の向こうに、もうイナンナはいなかった。
神か……
神が隠したのか?
それとも、もう追放されたのか……?
わたしは無力だ……
何もできなかった。
大切なイナンナを守る事も、殺す事も……
それから、わたしは追放されたイナンナを捜し始めた。
誰にも分からないよう静かに……
そして見つけたんだ。
『人間と魔族の世界』でドラゴンの卵に入ったイナンナを。
でもドラゴンの親はいなかった。
愚かな大天使どもが、すぐにイナンナが死ぬように誰もいない寒い場所に捨てたんだ……
愚かな大天使め……
今すぐ殺してやる!
いや……
天界にいる奴らを全員殺してやる!
でも……
イナンナはどうなるんだ?
こんな寒い場所で一人で死ぬのか?
ダメだ!
今度こそイナンナを守るんだ。
暖かい場所に行って温めよう。
誰もいない場所……
そうだ。
二人だけの秘密の島。
あそこなら……
わたしは卵に入ったイナンナを優しく抱きしめるとそのまま島に向かった。
温泉につけたら熱過ぎるか?
どうしたら温められる?
わたしは神とのあの話の後、すぐに神になった。
そろそろ神殿に戻らないと怪しまれるかも……
誰かいないか?
信頼できて、イナンナを温めてくれる……
そうだ!
ドワーフだ。
口は悪いが優しい奴だ。
きっと世話をしてくれるに違いない。
ドワーフは温泉に入りに、時々島に遊びに来ていた。
その時にイナンナにも会っていたし……
よし!
今すぐ頼みに行こう!
ドワーフは始めこそイナンナを預かる事に戸惑ったが、すぐ快諾してくれた。
それからしばらくして困った事が起きた。
魔族達がこの島の存在に気づいてしまったんだ。
ドワーフは慌ててイナンナと島の外に避難しようとした。
その時……
ついにイナンナは産まれた。
真っ白い小さなかわいいドラゴン。
金の瞳はあの頃のまま美しい。
イナンナの近くには大量の魔族がいた。
まずい……
イナンナの存在に気づかれてしまう。
卵のイナンナに会いに島に向かっていたわたしは、その光景に愕然とした。
さすがに神の姿はまずい。
そういえば昔、天族に逆らって殺されたブラックドラゴンがいたはずだ。
同じ色のドラゴンはいない。
今いるドラゴンと同じ色になったら怪しまれる。
大昔に死んだドラゴンなら誰も覚えていないか?
わたしはブラックドラゴンの姿になって、目眩ましの光の中からイナンナの前に現れた。
そして、そのままドワーフとイナンナを連れて島を出た。
イナンナはドラゴンの島にこっそり置いて来た。
ドラゴンは肉食だから、これ以上ドワーフには頼めなかった。
ブラックドラゴンの子だと思わせる為に少しだけわたしの姿を見せておいた。
それからは、ドラゴン達がイナンナを育ててくれた。
わたしは、正体がバレないようにドラゴンの島に行く事はほとんどなかった。
それに『天界』と『人間と魔族の世界』は時の流れが違うのか時間のズレがあった。
放浪癖があるという設定にして……
でもイナンナが困った時には助けに行った。




