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突然の奇襲~ルゥが主役の物語、前編~

 ん……

 朝か。

 

 フカフカのベットで目を覚ます。

 あれ?

 ママの部屋のベット?

 そういえば砂浜で眠くなって……

 そのまま寝ちゃってママが連れてきてくれたのかな?

 

 ママは、毎朝早く起きてどこかに出かけてプリン用の卵を持ってきてくれる。

 この世界にはプリンが無いらしくて……

 風邪をひいたパパの為に、じいじとママにお願いして材料を用意してもらった事があったんだ。


 パパってば『ママが持ってきた卵はママが産んだのか』なんて訊くから怒られて泣いていたよね。

 

 わたしが作ったプリンをパパが『おいしい』って泣きながら食べてくれた時は嬉しかったな。

 じいじもママも普段は人間の食べ物を口にしないけど、わたしが作ったからって言って食べてくれたよね。


 それからは、わたしがプリンを作るたびに一緒に食べるようになったんだ。


 パパは野菜とか魚族がくれた小魚とかを食べるけど、じいじとママは何を食べているんだろう?

 たぶん、肉食だよね。

 ……考えるのは、やめよう。

 

 今朝は暗いな。

 外からは、すごい雨の音が聞こえる。

 今日は日焼け止めは、いらないかな。

 ベットから出てわたしの部屋に戻って着替えをする。

 チューブトップにアラビアンパンツ、髪はポニーテール。

 そして左耳にイヤリングをつける。

 憑依した時に持っていたイヤリングは利き耳にはつけない方がいいってじいじが言うからいつも左耳につけている。

 

 あぁ……

 お腹空いた。

 

 リビングに向かう途中でパパが焼いているパンの良い匂いがしてくる。


 今日は雨だからパパと一緒にプリンを作ろう。

 おいしく作ってじいじとママとパパと食べよう。

 

 喜んでくれるかな?

 楽しみだな。


 ガシャン!

 ガタガタ!

 

 キッチンからすごい音が聞こえた?

 パパが何かを落としたのかな?


「パパ?」


 大丈夫かな?

 心配しながらキッチンを覗くと……

 

 え……?


 血まみれのパパが倒れている……?

 どうして?

 全く動かない……

 まさか……

 死……

 

 頭が真っ白になる。


 静か過ぎて、この場の時間が止まったみたいだ……

 ショックで指一本さえ動かせない。


 パパ……

 何があったの?

 生きているんだよね?


「パ……」


 やっと声が出たその時、キッチンの奥から身体の大きな狼人間が出てくる。

 手にはベットリ血がついた剣を持っている。


 ……!?

 まさか……

 パパを斬ったの?


 狼人間が近づいてきた……

 パパの血の匂いが充満していて頭が回らない。

 

「女! 魔王の息子はどこだ!」

 

 狼人間が低い声で尋ねてきたけど……

 魔王の息子って?


 狼人間がわたしの首に剣を突きつける。

 あぁ……

 わたしを殺すつもりだ。

 狼人間の大きな赤黒い目がわたしをじっとにらんでいる。


 これは……

 ……殺される。


「……ルゥ逃げて」


 パパの苦しそうな小さい声が聞こえた……?

 

 パパ!?

 生きていたんだ!


 とりあえず、この狼人間を何とかしないと。

 パパを逃がすんだ!


 あれ?

 狼人間が動かない?

 わたしを見たままボーっとしている?

 もしかして、これがじいじが言っていた魅了の力?

 

 わたしには生き物を惑わす力があるらしい。

 でも、上手く使いこなせていないから五分くらいしか効果はないんだよね?


 今から五分?

 五分で身体の大きいパパをキッチンから連れ出すのは無理だよ。

 

 じいじとママは……

 まさか、殺されていないよね?

 二人とも強いから平気だよね?

 お願い……

 生きていて!


 とりあえず、今わたしにできる事は……

 目の前の敵を倒す。

  

 殺す……の?

 わたしが……殺す?

 この狼人間を?


 弱気になっている暇はない!

 パパを守れるのは、わたしだけなんだ。

 迷っている時間はないんだよ!

 

 前世の時のおばあちゃんは猟師だった。

 農作物を荒らす動物の駆除をしていたんだけど……


 わたしの住む集落では猟師を『鉄砲撃ち』と呼んでいた。

 おばあちゃんがよく言っていたよね。


「害獣でも撃たれれば、(いて)ぇからなぁ。一撃で仕留めるんだ。それに、仕留め損ねるとこっちが殺されちまうだろ?」

 

 今パパを助けられるのはわたしだけなんだ。

 ……よし。

 一撃でやる。

 落ち着くんだよ。

 

 剣?

 武術?

 魔術?

 剣はここに無いよね。

 武術……?

 相手が大きいから無理だ。

 じゃあ、魔術?


 火?

 心が不安定になっているから、上手くコントロールできなくてパパも巻き込んじゃうかも。

 じゃあ風?

 そうだ!

 風!


 風で壁に叩きつけるんだ。

 できるだけ強く。

 家を壊さないくらいの力で!

 

 いや、ダメだ。

 そんなんじゃ倒せないよ。


 氷なら?

 猟銃でイメージしやすいかも。

 氷を弾みたいにして勢いをつけて飛ばして、心臓を貫通させよう。

 

 右手の人差し指と中指の間に意識を集中させる。

 

 ドクン……

 

 身体中の血管が熱くなるこの感じ……

 じいじが教えてくれた通りにできている。

 大丈夫。

 できる。

 できるよ!

 生き物相手に攻撃した事は無いけど。

 落ち着け。

 パパを助けるの!

 

 空中に魔法陣が出てくる。

 イメージするんだ。

 おばあちゃんの猟銃。

 弾を込める様に手に力を集めて……

 しっかり左胸を狙って……

 いや、心臓が左胸にあるとは限らないよね?

 

 頭……

 頭を狙うんだ。


 銃口から弾が出てくる感じで……

 氷の魔術で氷の弾を作って……

 風の魔術で飛ばす!


 手のひらが熱くなる。

 かなり熱い。

 ヤケドしそうだ……

 ダメダメ!

 パパを守る為に集中しないと!

  

 初めて同時に二属性の魔術を使っているからかな?

 身体が引きちぎられそうに痛い。


 でも、やめないよ。

 パパ、今助けるから待っていて!


 魔法陣からすごいスピードで氷が発射される。

 衝撃でわたしの身体が後ろに押される。


 くっ!


 膝から崩れ落ちる。

 うぅ……

 手のひらの皮膚が破けて血が出てきている。


 攻撃は?

 当たったの?


 太い氷のツララみたいな物が狼人間の顔を貫通して壁に刺さっている。

 

 血の海だ。

 わたしが……殺した。

 返り血が温かい。

 いや……

 熱いくらいだ。

 恐怖で頭が回らない。


 狼人間が床に転がっている。


 血まみれの手のひらが熱くて痛い。

 わたしが……

 殺したんだ……

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