集落の少女とドラゴン王~後編~
「そこでお父さん達はこう考えたんだ。神の恋人は追放された時にはすでに神の子を身ごもっていた。ドラゴン王はドラゴンの身体になったから、子はたぶん……集落の少女が産んだんだ」
お父さん……?
まさか、じゃあ集落の少女が神の子孫だった?
「月海、集落の屋号を覚えているかな?」
「え? うん。ピーちゃんの家は野田……わたしの家は神田、だよね?」
「そう。集落の人同士の時は皆、同じ苗字だったから屋号で呼び合っていた。田中、吉田、皆『田』がつくんだ。これは神が木を植えた後に田畑が良く実るようになった事から屋号につけるようになったらしい。それまでは、どの家も屋号は漢字一文字だった」
「えっと……じゃあわたしの家の木が植えられる前の屋号は……神?」
「そうなるね。まあ、これはお父さんの考えだから合っているかは分からないけど……」
「それから、オレの考えだが。あの浮遊島は神が恋人と二人で創り出した島だ。ふたつに割れたのは異世界の子孫の存在を知った神が、そこに住まわせて天族の目から隠して守ろうとしていたのかも」
ベリアルが、かわいいヒヨコの姿で話し始める。
「どういう事?」
「神は偉いが、周りには神の地位や権力を利用する為に自分の娘を娶らせようとする奴らが大勢いたんだ。そいつらが、次期神の恋人が身ごもった事を知って心と力を分けて二度と天界に帰れなくしたんだろう。そのうち神も他の女に心変わりすると思っていたようだが、神はずっと恋人だけを想い続けた。目障りな恋人の存在を完全に消す為に異世界の子孫を魔素で攻撃したんだろう。その時、神は初めて自分に子がいた事を知ったんじゃないか?」
だから島に住まわせようとしたけど、その時にはもうグリフォン族が住んでいたから半分に割った……?
「天族の奴らは卑怯だからドラゴン王にも攻撃していたんだろう。だからブラックドラゴンの姿で恋人を守り続けていたんだ」
ベリアルが天使を嫌う気持ちが伝わってくる。
でも神様や神様の恋人の事は、そうでもないみたい。
なんとなくだけど、そんな感じがする。
「じゃあ……わたしやお父さんがこの世界に来たのはどうしてなの? お父さんはどう思う?」
「それはウリエルがやった事だからなんとも言えないね。でも、お父さんにマンドラゴラの身体を与えてくれたのは神だよ。そして、月海に年をとる実をくれたのも神だった」
そうか。
お父さんの言う通りだね。
神様はいつでもわたし達親子を想ってくれているんだ。
「神様は……もし今のこの考えが合っているとしたら、これからどうなるの? 天使の世界で……辛い目に遭わないかな? 心配だよ」
息が苦しい……
でも、ちゃんと話さないと……
「たぶん……」
ベリアルが何かを言いかけてやめた?
「教えて? ベリアル」
知らないといけない事なの。
「神は一か月待てと言ったんだろ? じゃあ黙って待ってろ」
一か月待つ?
「もしかして……わたしが苦しくなったのって、恋人の子孫を……殺そうとした天使がやったの?」
「だろうな。魔族は皆、勇者の母親を大切にしているからそんな事はしないだろう。人間には到底無理だ。天族の奴らしかいないだろう」
一か月……
長いよ。
でも、わたしは言う事を聞かないで結局迷惑をかけちゃった。
「わたし……待つよ。一か月待つ」
こうしないとダメなんだ。
だって、わたし分かっちゃったから。
「ばあば……花言葉って知ってる?」
「知らないわね……異世界の言葉かしら?」
「うん……白いバラの花言葉はね『相思相愛』『約束を守る』なんだよ?」
「白いバラ……浮遊島にたくさん咲いていたわね」
「うん……永遠に枯れない白いバラだったね」
わたしの先祖は、ばあばとひとつだったのかな?
だから、ばあばが辛そうにしているとわたしも辛いのかな……
神様は恋人の事を心から大切にしていたんだ。
その想いはあの浮遊島の白いバラみたいに今も変わらない。
そういう事なのかな?




