集落の少女とドラゴン王~前編~
「ルゥが倒れた後、神が現れた。ルゥはかなり危ない状態だった。すぐにドラゴン王に術をかけさせる必要があったのだ。だがドラゴン王は意識がもうろうとしていてな……神が抱きしめると正気に戻ったようだった」
神様がばあばの意識を戻してくれたのかな。
「神は年をとる実を持って来ていて、ルゥに食べさせようとしたが……ルゥは意識を失っていて食べられなかった。だから、じいじが口移しで……」
口移し……
恥ずかしい。
あれ?
でも……
「じいじは……年をとる実を口に入れても大丈夫なの?」
身体に悪くないのかな?
ハーピー族長みたいに命を縮めたりしないかな?
わたしが今息苦しいのが実を食べたせいだったら、じいじも苦しいはずだよ。
「飲み込んでいないから大丈夫だ。心配はいらない。それに、ルゥが食べた実は毒ではなく安全な物だ」
よかった。
じゃあ、あの時鏡で見た綺麗な人間はルゥだったんだ。
あれ?
じいじはその実が安全だってどうして知っているのかな?
ウェアウルフ王も知らない実だって言っていたのに……
「神様は……どうして……わたしに良くしてくれるのかな?」
ばあばが結界の中にいるから今は話さない方がいいかな?
「……神は『また、こんな事になってしまった。今度こそ全てを終わらせよう』そう言って帰って行った」
また、こんな事?
前にも同じような事があったのかな?
「じいじも神様を見たんだね。……神様はどんな感じだった?」
「……ドラゴン王も気づいたようだな。あの神からブラックドラゴンの匂いがした」
おじちゃんの匂い?
おじちゃんと神様が会っていたっていう事?
「ルゥ、ブラックドラゴンは……神だ」
え?
じいじ……?
今……
なんて言ったの?
「そうよ。ルゥ、神はあの子だったの。もちろん、あの子がそう言ったんじゃないわ。魔族は鼻が利くから……間違いないわ」
お父さんを連れて来てくれた、ばあばが話し始めた。
でも……
ブラックドラゴンのおじちゃんが神様って……
どういう事なの?
「月海、身体は平気?」
お父さんが心配そうにわたしの膝に乗ってきた。
マンドラゴラの子供達とベリアルも連れて来てくれたんだね。
「お父さん、ごめんね。わたしは……平気だよ」
お父さんの、マンドラゴラの小さい身体がわたしを抱きしめている。
「月海が寝ている間に分かった事を聞いてくれるかな?」
「うん。聞きたい」
「まずは……ドラゴン王の事だ。ベリアルの話によればドラゴン王は遥か昔、天族だったらしい。そして、神の恋人だった」
お父さん……?
ばあばが神様の恋人?
「わたしは何も覚えていないけどね……記憶と力を分けて追放したのかしら。わたしは力の方みたいね」
ばあばは何も覚えていないんだね。
前世のおばあちゃんは夜に時々何かを思い出していたみたいだった。
じゃあ、記憶の方がおばあちゃんっていう事かな?
「神はブラックドラゴンとしてドラゴン王を見守っていたようだ」
じいじがココアを持って来ながら教えてくれる。
「赤ん坊だったわたしをドラゴン族の島に連れて行ったり、困った時には助けてくれていたようね」
なるほど。
ドラゴンの島に寄り付かなかったのは、時間の流れが違うから次に会うまでに時間がかかり過ぎたのかも。
「恋人の記憶の方が……たぶん集落の少女だと思うわ」
え?
ばあば?
じゃあ……
「本当に……前の世界のあの集落は『神落ち地区』だったっていう事……?」
そんな事があるの?
「でも……おかしいのよね」
ばあばが、真剣な顔をして呟いた?
「何が?」
「少女はたくさんの子を産んだんでしょう?」
ばあば……
どうしたのかな?
「うん。ピーちゃんが……そう言っていたよ?」
「子孫繁栄の実がないのにどうやって……?」
ばあばが不思議そうにしている。
「そういえば……そうだね。おかしいね」
少女は天使だから人間の子供を産むなら子孫繁栄の実が必要なはずだよね?




