パパの想い
「おかしいよ……こんなの」
「確かに、でき過ぎている」
わたしの声にお父さんが反応する。
「お父さん……わたしね、こうなるように仕組まれていたとしか思えないよ」
一体、いつから歯車に組み込まれていたの?
「たぶん、自称神が仕組んだんだろう」
お父さんも変だって思ったんだ。
「オカシクテモ、イイヨ。ボク、ダマサレテモ、イイ。カゾクニ、アイタインダ」
ピーちゃん……
このまま、自称神様の思い通りに進んでも平気なのかな?
それに……
いくつか気になる事もある。
「とりあえず、我がグリフォン王国に来て石碑を調べてみませんか? その後、ウェアウルフ王国に行きジャックフロストに話を訊いてみてはどうでしょう?」
グリフォン王の言う通りだ。
このままだとピーちゃん一人で行くとか言い出しそうだし……
今のピーちゃんはシームルグでも勇者でもない。
気をつけてあげないと。
「うん……グリフォン王の言う通りだね。今から行ってもいいのかな?」
「もちろんです。ですが今は冬の地域を浮遊しているので、ハーピーには厳しいかと」
寒いのか……
確かに妊娠しているママには辛いね。
「わたしもルゥと行きたいのに!」
ママ……
悔しそうだけど今は、赤ちゃんの為にもママの身体の為にも我慢してもらわないと。
「ママ……赤ちゃんが無事に産まれて、浮遊島が暖かい所に移動したら一緒に行かせてもらおう?」
「ルゥ……絶対に前の世界に帰るなよ? わたしだけがルゥのママなんだからな?」
ママが泣きそうな顔をしている……
わたしは、こんなに愛されているんだね。
「うん……ママだけが、わたしのママだよ?」
お腹の大きいママを優しく抱きしめる。
「ハーピーの事はパパに任せて?」
部屋の奥からパパが歩いて来た。
あれ?
パパ……?
いつもと違う……?
「パパ……? だよね?」
痩せている?
って言うより、筋肉がすごい。
話し方ものんびりじゃないし。
そういえば、この世界に来たばかりの時は今までみたいにのんびり話してはいなかった。
優しく話してはいたけど……?
だんだんのんびり話すようになっていったような……
どんどん太っていったし。
「ルゥ? どうしたの?」
パパが普通に話している……
不思議だ。
「パパ? どうしたの? 痩せちゃったし、話し方も違うよ?」
まさか病気とか?
数日でこんなに痩せちゃうなんて。
「違うよ? パパね、考えたんだ。いつもルゥに守られてばかりで、こんなんじゃ誰の事も守れないって。パパはルゥのパパで、これから産まれてくる子のパパなんだ。誰かの大切な存在を殺したくないって思っていたけど、自分の大切な存在を守れないのはもっと嫌なんだ」
「本当にエメラルドのオークだったのか……」
王様達が驚いているね。
エメラルドのオークは魔力の無い魔族達の憧れなんだよね。
「パパね……本当の事を言うと、ルゥの事を食べちゃいそうだったんだ。だから間違えて食べないように、いつも満腹にして肉食なのを忘れるようにのんびり動いていたんだよ」
え……
食べちゃいそうだった?
肉食は、ママとじいじだけじゃなかったのか……
一番危ない肉食が一番近くにいた……
時々わたしを見ながらヨダレを垂らしていたのは見間違いじゃなかったんだ。
「パパ……あの……今は食べたくないの?」
油断していたら食べられちゃいました、なんて嫌だよ?
「大丈夫だよ。ハーピーに嫌われる事は絶対にしないよ。それに、ルゥがかわいくて仕方ないんだ。食べるはずがないよ?」
よかった。
いきなり食いつかれる事はなさそうだよ。
パパは本当にママの事が大好きなんだね。
「前の真ん丸のオークもかわいかったが、今の姿もなかなかいいぞ?」
ママ……
そういえば昔、エメラルドのオークのパパに一目惚れしていたんだっけ。
「旅行の時に久しぶりに肉を食べたら、すっかり肉食に戻っちゃったのよね? ふふ」
ばあば……
何の肉かは言わないんだね……
「パパ……わたし、おいしそう?」
うんって言われたらどうしよう……
パパが、ママを抱きしめているわたしを抱きしめた?
「パパの大切なハーピーとかわいい子供達……何があってもパパが守り抜くよ」
パパ……
ポヨポヨのお腹じゃなくなったんだね。
ママとわたしとこれから産まれてくる赤ちゃんの為に、強くなろうと思ってくれたんだ。
わたしもピーちゃんが集落に帰れるように頑張ろう。
ピーちゃんが、野田のおじいちゃんとおばちゃんに抱きしめてもらえるように……
この温かい気持ちをピーちゃんにも感じて欲しいから……




