大好きなじいじ~後編~
ブラックドラゴンのおじちゃん……
じいじが怖いのに、いつもわたしにちょっかいを出してくるんだよね。
今回は殴られないといいけど。
天使の事を一か月待って欲しいってどうしてだろう?
とりあえず、皆に伝えよう。
日焼け止めを……
あ、もう塗らなくていいのか。
すごく楽になるよ。
「ルゥ!」
じいじが慌てて部屋に入って来た。
え?
じいじの動きが止まった?
ん?
あ!
着替えの途中……
「きゃぁぁあ!」
見られた!?
いや、待てよ?
そういえば、わたしが砂浜とかで寝ちゃった時……
いつも誰がパジャマに着替えさせているの?
普通に考えれば、じいじだよね?
嘘……
どうして今まで気づかなかったの?
恥ずかしくて、じいじの顔を見られないよ。
「ルゥ……じいじは部屋の外に行くから服を着なさい」
じいじが部屋から出て行ったけど……
冷静だったね。
うぅ……
このままずっと部屋にいるわけにもいかないよね。
服を着てドアを少し開けるとじいじと目が合う。
「うわあぁっ!」
「……驚き過ぎだろう」
……確かに。
でも、じいじは気配を感じないんだよ。
「じいじ! じいじ、あの……今まで……その……わたしにパジャマを……その……着せていたのは……」
「いや、見ていないぞ? 大丈夫だ」
「え?」
見ないでどうやって着替えさせるの?
「それより、あいつに何かされなかったか?」
それより?
かなり重要な事なんだけど……
でも……
「何かって?」
何だろう?
「いや、だから、その……」
話しにくい事?
「じいじ……?」
「あいつがいた時はパジャマを着ていたか?」
「……? 着ていたよ?」
「そうか」
どうしたのかな?
「じいじ?」
「あぁ……あいつは何をしに来たのだ?」
「え? あ! 伝言があったんだ」
「伝言?」
「一か月天使の事を待って欲しいんだって。あと、結界を張ったからもう日焼けもしないし、話の盗み聞きもされないって」
「一か月待てと言ったのか?」
「うん。理由は言わなかったよ?」
「そうか……つがいの宴に来ないと思ったら、今になって一か月待て……か」
「とりあえず、皆に話してみよう? ピーちゃんは一日でも早く帰りたいはずだから」
「そうだな。家族が元気なうちに帰らないとな」
じいじのこういう優しいところ……
大好きだよ。
「ルゥ!? どうした? 悲鳴が聞こえたぞ?」
ママがゆっくり歩いて来た。
って……
え!?
ママ!?
すごくお腹が大きくなっているよ!?
一晩でこんなに膨らんで大丈夫なの!?
慌てていないからこれが普通なのかな?
わたしの悲鳴が聞こえたから心配して来てくれたんだね。
申し訳ないよ。
でも、さすがに着替えを見られた悲鳴だったなんて言えないよ。
それとも、ドアを開けたらじいじと目が合った時の声かな?
どっちも話せないよ……
「わたし……あの、えっと……大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう? 顔が真っ赤だぞ!? 病気か!?」
いや、ママ……
もう忘れたいんだよ。
「あらあら。ふふ。ハーピー、具合はどう?」
ばあば。
来てくれたんだ。
あれ?
そういえば、ばあばはすごく耳がいいんだよね?
まさか、今までの話……
特にブラックドラゴンのおじちゃんとの話を聞かれていないよね?
「ルゥ? どうしたの? 日に焼けたのかしら。真っ赤よ?」
ばあばは聞こえていなかったのかな?
そういえば、おじちゃんが結界を張ったって言っていたからそれでかな?
ありがとう。
おじちゃん……
「なぁんてね。ばあば、橋にいたから全部聞こえてたわよ。ふふ。結界内は筒抜けなの」
……!?
全部……
最初から!?
「いいじゃないの。つがいになったんだから。かわいいわね」
ばあばが笑いながら抱きしめてくれたけど……
幸せの島から橋までは、おじちゃんの結界が繋がっているから音が遮断されないっていう事かな?
それとも魔王の島にも結界が張ってあるから、魔王城と橋と幸せの島の中にいたら耳がいい魔族には全部聞こえるの?
「ばあば? 結界の中のわたしの声って、どこまで聞こえているの?」
「魔王城の結界は、つがいの宴の前日にブラックドラゴンが張ったのよ? 幸せの島と橋の結界もあの子が張ったの。繋がっている結界内なら、耳がいいドラゴンなら全部聞こえるわね。でも家の中の声は聞き取りにくかったわね。困った事があったら家の外に出てから大声で叫ぶのよ?」
丸聞こえ……
っていう事は!?
まさか……
「ふふ。あの子と話していたあれね? ヴォジャノーイちゃんには聞こえていなかったわよ?」
ばあば!
ダメ!
内緒にして!
ばあばに抱きしめられたまま必死に首を横に振ったけど……
ばあばのこの笑顔……
絶対に面白がっているよ。
「何だ? どうした? ルゥ」
じいじ……
気にしないで!
「ルゥがね、ヴォジャノーイちゃんの事が大好きだって言ってたわよ?」
「ばあば!」
ほら、話しちゃった!
また顔が熱くなってきた……
「ふふ。邪魔者は退散しましょ? 行くわよ? ハーピー」
「え? 何でだ? もっとルゥと一緒にいたいぞ?」
ばあばが、嫌がるママと家の外に出て行った……
うぅ……
じいじと二人きりだ。
恥ずかしくて顔が見られないよ。
じいじに背中を向けて顔を隠していると、後ろから抱きしめられる。
うわぁ……
ダメだよ。
ドキドキし過ぎてクラクラしてきた。
……?
あれ?
急に水の音が……
じいじが水の防御膜を張ったの?
「この中なら誰にも聞こえない。ルゥ……じいじも大好きだ」
うわああああぁっ!
もうダメ……
クラクラし過ぎて立っていられないわたしを、じいじが抱きかかえてくれる。
じいじのドキドキがいつもより速い。
「わたしも……じいじの事が……大好き」
ひんやりしているけど、心が温かくなるじいじの腕の中……
幸せだよ。
ずっとずっとこの幸せが続きますように……
……?
胸がモヤモヤする?
幸せなはずなのに、どうして?
もしかして、これが『幸せ過ぎて怖い』っていう感情なのかな?




